ALS患者の脳波を読み取り言語化、大阪大発新興企業が今秋にも治験開始へ
ALS患者の脳波読み取り言語化、大阪大発新興企業が治験へ

全身の筋肉を動かせなくなる難病「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」の患者の脳波を読み取り、意思や考えを言語化できるかどうかを確かめる治験を、大阪大発の新興企業が今秋にも始める。用いられる技術は、脳卒中患者のリハビリで実用化されるなど、国内外で注目を集めている。

BCIの仕組みと治験の内容

この技術は「ブレーン・コンピューター・インターフェース(BCI)」と呼ばれる。脳に埋め込むなどした電極が脳波を読み取り、人工知能(AI)に学習させたデータを基に、脳内で思い描いたことを解読装置が判断し、パソコン画面に表示する仕組みだ。

ALSは病状が進行すると、声を出すのに必要な筋肉が動かなくなる。目で50音表を追う方法もあるが、目の筋肉も動かせなくなると難しくなる。BCIはこうした患者を支える一助になる可能性がある。

治験は、装置を開発した「JiMED」が実施する。参加者には500円玉より少し大きい電極シートを脳の表面に貼る手術をする。画面に示された50音表の文字の色が切り替わる際、思っている文字の色が変わった時に手を握るイメージを頭に思い描くと、その文字が入力される。

事前の臨床研究では安全性や動作性に問題はなかった。治験では、患者が頭で考えた通りに文字が入力できるか検証する。同社の中村仁代表は「将来、意思表示ができなくなるかもしれないという患者さんの恐怖を和らげられるようにしたい」と話す。

脳卒中リハビリでの実用化

BCI技術は、脳卒中などで手の指がまひした患者のリハビリ用医療機器として、2024年に国内で実用化されている。ヘッドホン型の機器で脳波を読み取り、手術は不要だ。脳波は電極シート式より捉えにくいが、専用アプリのタブレットに解析結果が送られ、装着した機器が手の指を動かす。

開発した慶応大発の新興企業「LIFESCAPES」によると、これまでに1000人超の患者に使われた。林正彬社長は「機器の着脱が容易で、限られた時間でもリハビリに取り組むことができる。より多くの施設などで使えるようにしていきたい」と話す。

2019年に脳梗塞を発症し右半身が動かなくなった兵庫県芦屋市の山本誠さん(77)は、2024年から通院先のリハビリ施設でこの機器を使う。「以前より、手をうまく握れるようになった」と言い、右手に握ったバナナを口元に運ぶ動作もできるようになった。「もっとスムーズに動かせるようになったら晩酌を楽しみたい」と笑顔を見せる。

施設を監修する竹林崇・大阪公立大教授(作業療法学)は「BCIの技術を使った機器を用いることで、患者は腕を動かす感覚を身につけられる。その結果、機器を外している時も、力の入れ方などの加減がイメージしやすくなり、早期の機能回復につながる可能性がある」と指摘する。

海外での開発と将来展望

海外でも開発が進む。米国ではイーロン・マスク氏設立のニューラリンクがALSや脊髄損傷などの患者を対象に臨床試験を実施し、脳に埋め込んだ電極でパソコンを操作できるか検証。絵を描くなどの作業ができたという。中国では上海の企業が脳波で義手を動かす医療機器を開発した。

体調などに応じて脳波が異なることに着目し、健康管理に役立てようとする動きもある。日本総研によると、米国のオープンAIやアップル、グーグルでは血圧や心拍などと脳波データを組み合わせ、健康状態を把握するサービスを開発中だ。報告書をまとめた西下慧シニア・リサーチャーは「将来的にはメンタルケアや疲労・睡眠状態を把握する手段の一つとして、脳波が加わる可能性がある」と話している。