寝る前にベッドでスマートフォンを見ているうちに、気づけばかなりの時間が経過している――。フェイスブック、インスタグラム、X(旧ツイッター)、TikTokなどを眺めていると、誰しも経験があるのではないだろうか。最近注目されている「リベンジ夜更かし」という言葉は、単なる夜更かしとは一線を画すという。「リベンジ(報復)」という言葉の強さが印象的だ。
「リベンジ夜更かし」の定義と背景
「リベンジ夜更かし」とは、日中に自分のために時間を使えなかったことへの反発から、睡眠時間を削ってでも「自分の時間を使った」という感覚を得る行為だ。ニッセイ基礎研究所生活研究部の広瀬涼氏によると、従来の夜更かしが深夜のテレビ番組を見る、友人と飲みに行くなど、ある程度明確な目的があったのに対し、現在は「自分のために時間を過ごすこと」自体が目的化している点が大きな違いだという。
約30年前は仕事は忙しくとも所得はそれなりにあったが、現在は特に若年層で、仕事に見合うと感じられる所得を得られない人が多い。就職市場が売り手市場でも、希望する企業に入れる人は限られている。つまり、自分の望まない仕事に1日の大半を費やしていることへの「リベンジ」という側面がある。
言葉の広がりと調査結果
この言葉が広まったのは2014年頃の中国とされる。当時、中国ではIT企業を中心に長時間労働が社会問題となり、「966勤務(午前9時から午後9時まで週6日勤務)」と呼ばれる働き方が常態化していた。その中で、日中に失われた自由を取り戻そうと睡眠を削って自分だけの時間を確保する考え方に共感が集まり、英語圏では「Revenge Bedtime Procrastination」として知られるようになった。「Bedtime Procrastination」は「就寝の先延ばし」の意味だ。
その後、日本を含む世界各国で共感を集め、コロナ禍で在宅勤務が増えて仕事と私生活の境界があいまいになったことが、さらにこの傾向を助長したと考えられている。
セイコーグループの「セイコー時間白書2024」では、15歳~69歳の男女1200人に「リベンジ夜更かし」の経験を尋ねたところ、ほぼ半数が経験ありと回答し、「週1回以上」は27%と、4分の1が「常習者」という結果だった。別の調査では、睡眠不足の悪影響を理解した上で睡眠を削っている人が多いことも分かっている。
心理的な背景と今後の見通し
年齢が低く所得が少ない層ほど「現在志向」になりがちだとされる。長期的な目標を持てず、今日をどう乗り越えるかが大きな関心事になっている。個人が好きなことを追求していい時代になり、それができないと強い焦りを感じる面もあるだろう。しかし、1日の終わりに自由な時間を得ると睡眠時間を失う。「トレードオフ」をしながら生きている状態で、借金しながら「推し活」をすることに通じるという。
広瀬氏は個人的にはリベンジ夜更かしにも推し活にも肯定的な立場だ。身体的健康はもちろん大切だが、精神的に満たされることも重要で、リベンジ夜更かしで精神的な健康が保たれている人も多く、強制的にやめさせることはないのではないかと感じている。遅刻で他人に迷惑をかけたり、本当に体を壊したりすることは避けるべきだが、個人のトレードオフの範囲で済むなら肯定してもいいと話す。
睡眠不足が健康や翌日の仕事に影響することは多くの人が理解している。それでも夜更かしするのは非合理に見えるが、単なる意志の弱さや自己管理能力の欠如だけでは説明できない。「現在の自分を支えるために必要な時間を確保したい」という切実な感覚があり、睡眠や時間という資源を取り崩さなければ現在を維持できない。先行きが見えにくいからこそ、今この瞬間が優先されやすくなっている時代の表れだと言える。



