安愚楽牧場破綻15年、被害4200億円 国の責任巡る裁判は判断分かれ解決至らず
安愚楽牧場破綻15年、被害4200億円 国の責任巡る裁判は判断分かれ解決至らず

過去最悪の消費者被害を生んだ安愚楽牧場が経営破綻して15年が過ぎた。被害総額約4200億円のうち、出資者に戻されたのは5%ほど。国に監督責任を問う裁判が起こされ、今年になって判決が出たが、判断が分かれ、解決には至っていない。

「国にも裏切られた」と語る男性

「日本の畜産を応援しましょう」。大阪府の団体役員の男性(67)は1995年頃、妻から安愚楽牧場の広告を見せられた。安愚楽牧場は81年に栃木県那須町で創業。出資者に繁殖牛を販売した上で飼育の委託を受け、生まれた子牛の売却益を配当するとうたう「和牛オーナー制度」を展開していた。男性は「日本の畜産業を応援したい」と出資を決めた。

最初は50万円。配当金は期日までにきちんと支払われ、安心した。重度の知的障害がある幼い次男がおり、男性は「自分たちが高齢になって面倒をみられなくなった時のため、お金を残してあげたい」と出資額を増やしていった。次男のための貯金も取り崩し、出資総額は1100万円に膨らんだ。

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2006年頃、同様の事業を行っていた別の牧場が相次いで経営破綻した。農林水産省は09年、安愚楽牧場に立ち入り検査を実施。その後も安愚楽牧場が制度を続けたため、「国の機関が検査したのだから大丈夫だろう」と考えた。だが、11年8月に経営破綻。繁殖牛が不足し、出資者に架空の牛が割り当てられていた。

男性は「投資は自己責任だから損をすること自体は仕方ない」と思う一方、「うそをついていた安愚楽牧場が一番悪いが、国がきちんと指導していれば、途中で出資をやめていた。国にも裏切られた」と語った。

被害4200億円、5%しか戻らず

牧場の破産手続きでは、出資者が計約4200億円の債権を届け出て、過去最悪の消費者被害となった。配当によって出資者らの手元に戻ったのは約212億円だけだった。牧場の元社長らは13年、架空の牛の情報を記した契約書を使ったなどとして、特定商品預託法違反容疑で逮捕され、その後、実刑判決が確定した。

刑事裁判などで、農林水産省が09年の立ち入り検査で繁殖牛の不足を見抜けず、「重大な違反はない」と判断していたことが判明した。約1800人の出資者らが14年、全国4地裁に国家賠償を求める集団訴訟を起こした。

原告側は、同省が牛の頭数が帳簿上の数に足りないことを容易に把握できたのに行政処分を怠ったなどと主張。国は「合理的な調査を実施しても頭数不足をうかがわせる事情はなかった」などと反論し、訴訟は長期化した。

提訴から約12年を経て、ようやく判断が示された。東京地裁は5月、「頭数不足の把握は容易ではなかった」などと請求を棄却する判決を言い渡した。

一方、7月の大阪地裁判決は「追加の説明を求めていれば、牧場の実態を把握できた」などとし、業務停止命令などを出さなかった国の対応を違法と認定。約130人に計約3億7000万円を賠償するよう国に命じた。

東京の訴訟では原告が、大阪の訴訟では国と請求が認められなかった原告の一部がそれぞれ控訴し、争いは今後も続く。

オーナー商法、禁止後も後絶たず

被害者の会代表で、一家で計約4000万円の被害を受けた東京都足立区の川口瑞夫さん(62)は「二度と同じような被害が出ないように、国は監督体制などの問題を真剣に受け止め、教訓にすべきだ」と訴える。

安愚楽牧場のように、物品や施設の所有・利用の権利を顧客に販売し、預かった事業者が運用して利益を出す仕組みは「販売預託商法(オーナー商法)」と呼ばれる。運営が行き詰まるケースが相次ぎ、消費者庁によると、出資者らの被害総額は1兆円を超える。

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2022年に同商法を原則禁止する預託法が施行されたが、その後も不正は後を絶たない。24年には、大阪府警が「太陽光パネル」のオーナーになれば利益を得られるとうたって販売預託契約を結んでいた会社の元社長らを摘発。今年2月にも、ヘリコプターの所有権を購入すれば利益を得られるとうたって集金したとして、警視庁が一般社団法人の代表を逮捕した。

消費者被害に詳しい紀藤正樹弁護士は「悪質商法は次々と手口を変え、被害を生んでいる」と指摘。預託法で規制されていない不動産や暗号資産を対象に投資を募り、トラブルとなる例も相次いでいるという。

紀藤弁護士は「悪質な手口を網羅的に規制できる法整備が欠かせない」とし、「高配当をうたう甘い勧誘は、まず疑ってかかるべきだ」と話している。