87歳女性の強制退去で大規模デモ、スペインで借主保護の法整備求める
87歳女性の強制退去で大規模デモ、スペインで借主保護要求

スペインの首都マドリードで26日、年金生活者の女性マリカルメン・アバスカルさん(87)が長年暮らした自宅から強制退去させられたことに抗議する大規模なデモ行進が行われ、借主の保護強化が訴えられた。

強制退去の経緯と波紋

アバスカルさんは24日、警官隊がドアを破壊して突入した後、医療従事者らにより担架で運び出された。この映像が波紋を広げ、2027年に予定される総選挙を前に、同国の住宅問題が再び脚光を浴びることとなった。

デモ参加者らは、鍵を鳴らし、笛を吹きながらマドリード市内を行進し、上昇する住居費の抑制や、強制退去手続きを制限する法整備を求めた。集会で掲げられた横断幕には「次はあなたかもしれない」と書かれていた。

参加者数の食い違いと抗議キャンプ

参加者人数について、当局は約2万5000人と発表したが、主催したマドリード借主組合は30万人以上と主張した。

同組合の声明によると、集会終了後には、一部活動家が市中心部のプエルタ・デル・ソル広場に抗議キャンプを設営し、人々に対抗行動への参加を呼びかけた。また、X(旧ツイッター)には「もう限界だ。賃貸制度が崩壊するか、政府が倒れるかのどちらかだ」と投稿した。

現地にいたAFP記者によると、マドリード自治州政府庁舎前の広場にはテントが10張ほど設置され、数千人のデモ参加者が取り囲む中、警察が警戒にあたった。

家賃の高騰とアバスカルさんの訴え

マドリード賃借人組合によると、アバスカルさんが70年暮らしたこの賃貸住宅をめぐっては、新大家になった不動産会社が家賃を一気にそれまでの3.75倍の月額2650ユーロ(約47万円)に引き上げていたとされる。

現在、同国の住宅危機を象徴する存在となったアバスカルさんは、デモ開始の数時間前に投稿された動画メッセージで「自分に起きたことが、他の人に起きないよう役立ててほしい。この問題と闘い、私が強制退去させられる原因となった法律の改正を後押しする力になってほしい」と訴え、人々に運動への参加を呼び掛けた。強制退去以降、アバスカルさんは、疲労のため病院に入院している。

参加者の声と政府の対応

デモに参加したグラフィックデザイナーのエンリケ・オルテガ・デ・ミゲルさん(38)は、「絶望的な状況だ」とし、「手が届く物件を見つけることは難しく、見つけた後も、追いだされる恐怖に怯えながら生活することになる」と語った。ミゲルさんは現在、母親と同居しているという。

また、エンジニアのアイリーン・ロペスさん(33)は、状況が「維持不可能」になっていると述べた。「都市部で生活費を払えない人々がおり、家賃は給与水準とかけ離れている」と指摘し、アバスカルさんの強制退去は「限界点だった」と語った。

アバスカルさんと同じく年金生活者のマリカルメン・アルネドさん(76)は、高齢者が自宅から追い出される一方で「若者は実家を出ることができない」と話し、「住宅価格と家賃が下がることを望んでいる。53歳になる息子の下着を洗うのにはもううんざりだ」と付け加えた。

アバスカルさんの強制退去以降、社会労働党(PSOE)のペドロ・サンチェス首相は全土で定期的な抗議運動に直面している。

政府は次の閣議で、賃貸契約の自動更新や強制退去をめぐり、貸し手側に強い規制をかける通称「マリカルメン令」と呼ばれる包括的対策を承認する見通しだ。しかし、サンチェス政権が与党過半数を確保していない議会で、この法案が可決されるかは不透明となっている。

今年前半にも同様の法案が否決されたが、アバスカルさんの事案を受けて各政党に対する圧力は強まっている。

スペイン銀行(中央銀行)の推計によると、人口約5000万人の同国では、需要と新築住宅供給の不均衡から、約70万戸の住宅不足が起きている。専門家らは、公営住宅が少ない上、観光需要の増加や移民増加に伴う人口増加が家賃を押し上げる要因になっていると指摘している。