千葉大学医学部付属病院に、自由に音を出せる防音室が設置された。白血病を患い、2023年に21歳の若さで亡くなったチェリスト、山本栞路さんの願いが形になった。両親の昭夫さん(59)と昌代さん(58)や医療関係者が遺志を継ぎ、実現にこぎ着けた。
栞路さんは3歳からチェロを始め、小学生の頃にはコンクールで入賞。桐朋学園大に進学し、将来を期待されていた。しかし2022年に白血病と診断され、千葉大学医学部付属病院に入院した。
病院は楽器の演奏はもちろん、普通に声を出すことも遠慮するような場所。栞路さんはストレスによる突発性難聴も発症した。家族と電話することも自由にできない人々を見る中で、「病院に防音室を寄付したい」という目標を持った。チェロを弾きたいだけでなく、患者さんが安心して自分を出せる場所を作りたいと考えていた。
遺志を継いだ活動
約10か月の闘病の末、栞路さんは2023年4月に亡くなった。遺志を継いだ両親と関係者で「M for M」という団体を作った。二つのMはMusic(音楽)とMedicine(医学、薬)を意味する。
栞路さんと親交があった音楽家らとチャリティーコンサートを開いたり、クラウドファンディングを行ったりして、支援の輪が広がった。昨年7月のコンサートでは、楽器メーカーのヤマハが開発した「リアルサウンドビューイング」という技術によって、栞路さんが使っていたチェロで生前の演奏が再現された。昌代さんは「チェロが歌っている、息子に会わせてくれた、という気持ちになった」と振り返る。
昭夫さんは「お金だけではなく、皆さんの思いを集めているということが、よくわかりました」と話す。多くの人の賛同を得て、防音室は昨年10月、栞路さんが入院していた血液内科がある病棟のラウンジに設置された。
患者が安心して使える防音室
広さは約5平方メートル、高さは2.5メートルほど。柔らかい明るさのライトや木製の床など、温かみのある雰囲気が特徴的だ。
現在は予約制で使用でき、血液内科に入院する患者さんらが利用している。楽器演奏や音楽鑑賞だけでなく、家族との会話やリモートワーク、大音量でのゲームやスポーツ観戦など、思い思いの過ごし方ができる。
防音室には患者さんの急変に備えナースコールが設置されているほか、室内のカメラで看護師がモニター越しに様子を見守るなどの対応も欠かせない。看護師長の堀口さとみさんは「防音室は、治療を受ける患者さんの心の支えになっています」と力を込めて語った。
道しるべに
栞路さんの名前には「誰かの道しるべになってほしい」という願いが込められている。昭夫さんは「今、息子が自分たちの道しるべになってくれている。目には見えなくても、彼がそばで自分たちを後押ししていると感じられる」と話した。昌代さんも「目には見えないものが、防音室という目に見える形になっている」と語る。
現在、昭夫さんと昌代さんは全国の病院での防音室設置を目的に活動している。栞路さんの願いから生まれた防音室で、病気と闘う人々の心が安らぐことが願われている。



