膵がんと糖尿病の深い関係、血糖値の急な悪化に要注意
膵がんと糖尿病の関係と注意すべき血糖値の変化

医学が進歩した現在でも、膵がんは早期発見が難しく、治療が難しいがんの一つです。膵がんと関係する病気の一つが糖尿病で、糖尿病がある人は膵がんの発症リスクが高いことが知られています。一方で、膵がんが糖代謝に影響し、新たな糖尿病の発症や血糖コントロールの悪化につながることもあります。本稿では主に、加齢や遺伝的要因、生活習慣など複数の要因が関係して発症する2型糖尿病を念頭に解説します。

糖尿病とがんの関係

糖尿病がある人では、膵がんだけでなく、いくつかのがんの発症リスクが高いことが報告されています。日本人を対象とした研究では、糖尿病がある人はない人と比べて全がんの発症リスクが1.10倍、がんによる死亡リスクが1.16倍と報告されています。臓器別では、肝がんの発症リスクは1.97倍、大腸がんは1.40倍、膵がんは1.82倍とされています。

糖尿病ががんリスクを高める仕組みは完全には解明されていませんが、高インスリン血症や高血糖、慢性的な炎症など複数の要因が関係していると考えられています。インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を細胞に取り込むために重要な役割を果たします。2型糖尿病では、インスリン抵抗性やインスリン分泌不足によって血糖値が高い状態が続きます。インスリン抵抗性がある場合、体はそれを補うためにインスリン分泌量を増やし、高インスリン血症がみられることがあります。インスリンには糖代謝の調節だけでなく細胞増殖にも関わる作用があり、高インスリン血症などががんの発症に関係する可能性が考えられています。

このほか、高血糖に伴う酸化ストレスや、肥満などに伴う慢性的な炎症もがんの発症リスクに関係している可能性が指摘されています。ただし、糖尿病があるからといって必ずがんになるわけではなく、年齢や肥満、喫煙など共通するリスク因子も関係しています。

膵がんの現状と早期発見の難しさ

国立がん研究センターの統計によると、2023年に国内で膵がんと診断されたのは47,540例で、2024年には41,235人が膵がんで亡くなっています。2018年に膵がんと診断された人の5年相対生存率は13.2%とされ、ほかのがんと比べても治療が難しいがんです。

その大きな理由の一つが早期発見の難しさです。早期の膵がんでは特徴的な症状が現れにくく、症状をきっかけに発見された時点で進行していることもあります。また、膵がんには喫煙、糖尿病、慢性膵炎、家族歴など複数のリスク因子が知られていますが、一般の人を対象にした有効な膵がん検診は確立されていません。膵臓は体の奥深くに位置するため、特に早期の小さな病変を見つけることは簡単ではありません。こうした背景から、膵がんのリスクが高い人を絞り込み、適切な検査につなげることが重要になります。

膵がんを疑うべき変化とは

糖尿病がある人では膵がんの発症リスクが高い一方、糖尿病は患者数が非常に多い病気です。糖尿病があるという理由だけで全員が精密検査を受けるわけではありません。そこで注目されているのが、糖尿病の発症時期や血糖コントロールの変化です。

これまで血糖コントロールが比較的安定していたにもかかわらず、ある時期から血糖値やHbA1cが悪化することがあります。原因としては食生活や運動量の変化、体重増加、薬の服用状況、ほかの病気などさまざまなものが考えられますが、膵がんなど膵臓の病気が背景にあることもあります。膵がんに伴う糖代謝異常には、インスリン分泌低下だけでなく複数の仕組みが関係していると考えられています。食事療法や運動療法、薬物療法に大きな変化がないのに血糖値やHbA1cが急に悪化した場合は、自己判断せずかかりつけ医に相談しましょう。

新たに糖尿病を発症した人の一部では、その背景に膵がんが隠れていることがあります。特に糖尿病と診断されてから間もない時期には膵がんの発症リスクがより高いという報告があります。高齢になってから新たに糖尿病を発症した場合や、意図しない体重減少を伴う場合、膵がんの家族歴などほかのリスク因子がある場合は、膵臓の病気が隠れていないか注意が必要です。ただし、新たに糖尿病と診断されたからといって膵がんがあるという意味ではありません。発症時期や血糖値の変化、年齢、体重の変化、家族歴などを踏まえ、必要な検査について医師と相談することが大切です。

膵がんでは腹痛や背中の痛み、食欲不振、意図しない体重減少、黄疸などの症状が現れることがあります。症状が続く場合は医療機関へ相談してください。ただし、早期の膵がんでは自覚症状がほとんどないこともあり、「症状がないから膵がんではない」と判断することはできません。

膵がんの検査と専門医の見解

糖尿病でかかりつけ医を受診している人が、血糖コントロールの急な悪化などから膵臓の病気を疑われた場合、必要に応じて詳しい検査ができる医療機関を紹介されることがあります。膵がんの診断では腹部超音波検査やCT、MRIなどの画像検査が行われ、必要に応じて内視鏡の先端に超音波装置を備えた超音波内視鏡(EUS)などでより詳しく調べることもあります。どの検査が必要になるかは患者の状態やそれまでの検査結果によって異なります。

消化器内科の専門医である林晋太郎先生(一宮西病院 消化器内科/副部長)は、膵がんと糖尿病の関係について次のように話します。「糖尿病は膵がんのリスク因子の一つですが、反対に、膵がんの影響で血糖値が上がり、糖尿病を発症したり悪化したりすることもあります。糖尿病と膵がんは、互いに影響し合う関係にあるといえます」

実際の診療で膵がんの可能性を考えるきっかけになるのは、主に二つの場面です。一つは中高年になって新たに糖尿病と診断されたとき、もう一つは食事や治療内容が変わらないのに血糖値やHbA1cが急に悪化したときです。そこに、食事量は変わらないのに体重が減っている、膵がんの家族歴がある、慢性膵炎や膵のう胞を指摘されている、喫煙習慣があるといった条件が重なれば、より注意が必要です。こうした変化に気づいたら、まずはかかりつけ医に相談し、必要に応じてCTやMRI、超音波内視鏡などで膵臓を詳しく調べます。

膵がんは症状が出てから見つかると進行していることが少なくありません。「症状がないから大丈夫」と考えず、糖尿病の変化を見過ごさないことが早期発見につながります。また、肥満や喫煙を避けることは、糖尿病と膵がん両方のリスクを下げることにもつながります。