救急患者を搬送するドクターヘリが今年度、東京、大阪、徳島の3都府県で、年間を通じた運航の見通しが立っていない。整備士不足などを理由に、委託先の運航会社が見つからないためで、専門家は「搬送が遅れ、救える命が救えなくなる恐れがある」と危機感を募らせている。厚生労働省や国土交通省は安定的な運航に向け、整備士の確保などに動き出した。
有識者検討会で危機感
厚労省が23日に開いたドクターヘリに関する有識者検討会の初会合で、運航が難しくなっている状況を危惧する声が上がった。「ドクターヘリは重症患者に迅速な医療を提供する社会資源だが、運航体制に課題がある」「整備士が退職し、危機的な状況になる」との指摘があった。
ドクターヘリは、人工呼吸器などの医療機器や医薬品を積み、救急医らが患者を治療しながら病院に搬送する。厚労省によると、全国に54機が配備され、2024年度の出動件数は約2万8000件に上る。山間部や過疎地からの迅速な搬送に役立っている。
10都府県で運休、3地域で対応難航
東京や長崎などの計10都府県で昨年夏頃から断続的に運休が発生。いずれも学校法人ヒラタ学園(堺市)が運航を担っていたが、高齢の整備士の相次ぐ退職で安定運航が困難になった。10都府県のうち7府県は別の運航会社と通年契約を結ぶなど対応が進んだが、徳島は2026年6~9月と12月~2027年2月の期間限定契約しか結べず、東京と大阪は委託先が見つかっていない。代替として防災ヘリやドクターカーなどで搬送している。
厚労省などによると、運航会社は全国に12社。整備士のなり手不足に加え、新機体の確保にも医療機器搭載など複雑な作業が必要で納入まで約3年かかるため、各社は新たな受託が難しいという。
専門家の訴えと国の対策
日本救急医学会理事の横堀将司・日本医科大教授は「救命センターから離れた地域など、ドクターヘリを必要とする患者がいる。運航できない地域では搬送が遅れる事態が起きかねない」と訴え、国による実効性のある対策を求める。
厚労省は、整備士が同乗する運航基準を緩和し、一部地域で業務代行可能な操縦士がいれば同乗を不要とする特例を設けた。検討会は今後、財政支援を含む整備士や機体の確保策、効率的な運用方法を議論し、9月に緊急対策をまとめる予定だ。
国交省の人材確保策
国土交通省は整備士1人の業務範囲を拡大し、ヘリ操縦士養成コース新設を決めるなど人材不足対策に力を入れている。省令を改正し、今年4月から「航空運航整備士」が運航の合間に行う保守・点検について、業務範囲を従来の6割から9割に拡大した。
国交省によると、整備士は現在約6000人で、約4割が50歳以上と高齢化が進む。航空需要の高まりで2030年までに約7400人が必要と見込まれる一方、全国の航空専門学校入学者は2017年の約600人からコロナ禍を経て半減し、2025年と今年も350人前後にとどまる。
対策として国交省と防衛省は、整備経験がある自衛隊退職者が民間航空機の整備士資格を取得しやすい仕組み作りを開始。一部の退職予定者は今春までに専門学校で職業訓練を受け、学科試験合格者は順次、航空会社に採用されるという。
ドクターヘリや消防防災ヘリなどの「公共用ヘリコプター」の操縦士不足も課題だ。国交省は今年6月、2030年以降に年間10人以上不足するという試算を公表。公共用ヘリの操縦士は1000時間以上の飛行経験が求められるが、ドローンの台頭で若手操縦士が経験を積む機会が減っていることが要因という。
国交省は2028年度末をめどに、航空大学校(宮崎市)にヘリ操縦士養成コースを新設。集中的な訓練を狙い、今年から機材整備や訓練カリキュラムの策定を行う。国交省担当者は「ドクターヘリなどの運航を止めないための対策を打つ」と話した。



