昨年1月から70回にわたり、メダデ教会を巡る物語を届けてきた。最後に一人の信徒を紹介したい。ヨシダ(60)という。
幼い頃から無口で引っ込み思案。「勉強も運動も『普通』の子でした」。親から「お前は真面目が取り柄だから公務員になれ」と言われ続け、その通り地方自治体に就職した。両親が死んでからは、団地の一室で一人暮らしを続けた。
クラシック音楽と旅が好きだ。長期休暇には夜行列車で北海道や九州へ。誘われれば飲みには行くが、騒がしい場はどうも苦手。良くも悪くも、波静かな人生だった。
50歳過ぎの辞職、そして西成へ
荒波は、50歳過ぎに来た。職場でどうしても納得できないことがあり、辞表を出したのだ。事情は「守秘義務」から明かせない。断言できるのは、自分なりの「正義」を貫いた決断だったということだ。
周囲は止めたが、後には引けなかった。展望なき辞職。日雇いで慣れない力仕事を始め、腰の骨を折った。生活が荒れ、西成のシェルターに泊まるようになって数日後、牧師だという女性に声をかけられた。事情を話すと、その場で言われた。「うちの子になり」
信仰心は全くない。目の前の女性がまともな人かも不明だ。「でも、このままだと人生が終わる。イチかバチかでついて行きました」
それが牧師西田好子との出会い。ほどなくして西田の後押しでマンション管理人の仕事が決まった。
あれから5年、教会の中で変わったこと
あれから5年が過ぎた。いつもどなっている西田はやっぱり怖い。マサミチの傍若無人さに耐えきれず教会を飛び出したこともある。騒ぎを次々起こすヒデキには心底あきれた。
同時にこの教会で繰り広げられるドラマに驚き、悲しみ、笑った。「漫画の世界みたいだと思いました」。いつしかビデオカメラで西田の説教や信徒たちの姿を収めるようになっていた。皆が話しかけ、頼ってくるようになっていた。「ヨシダ君、ヨシダ君」と。
マサミチもそうだ。「姐も年や。ヨシダ君が教会を背負っていかなアカン!」。以前は怖くてたまらなかったのに、今ではよき兄貴分に思えるから不思議だ。気づけば、結構しゃべっている自分がいる。
孤独死を見続けた過去、そして看取りの経験
昔、公営住宅の管理部門にいた時、孤独死の現場に何度も立ち会った。腐敗した老人の姿は、強烈な臭いとともに、今も鮮明だ。
多くの高齢者が誰にも看取られずに死んでいく。自分もいつかそうなると思っていた。だが、今年3月、イシズの最期を西田たちとともに看取り、考えは変わった。
誰もが一人で死んでいく。でも最期までそばにいる、そばにいてもらうことはできる。だから先に老いていく信徒たちのため、ヘルパーの資格を取ることにした。西田の言う「ほんまもんの家族」の一員として。
新教会建設と、西田牧師の変わらぬ叫び
ヨシダが交渉した新教会の建設工事は着々と進行している。完成は秋。床が抜けた現教会よりも二回りは大きくなる。広さにこだわった理由は単純明快。西田には救いたい人が「山ほどいる」からだ。
このハチャメチャな牧師は今もまた、ある男を助けようと躍起だ。両親は小学生の時、「風呂行ってくるわ」と出て行ったきり。生きるために空き巣や無銭飲食を繰り返し、30回以上、服役していた。覚醒剤中毒者。コンビニ強盗の元常習犯。奇声をあげてゴミ箱をあさっている男……。西田の頭の中には、何十人ものリストがある。
〈神様――。社会ののけ者にされた人間、心が腐ってしもた人間、老いや病にむしばまれた人間、まとめてドバッと教会に突っ込んでくださいませ。私にはもう何も怖いもんはありませんので〉
西田は教会建設の資金を捻出するため自らの生命保険を解約した。息子たちは、全財産のほとんどをなげうつ母を心配して意見もしたが、「反対しても、やるんやろ」と最後は、背中を押した。
〈けったいな人間ですやろ。私かてそう思う。でも、メダデではどんな人間でも変われるちゅう、妙な確信があるんや〉
その自信はどこから?〈ここにいてる信徒ですがね〉
オチ、ダイコク、ナカニシ、フクジュ、サカシタ、ヨシダ、ヤマグチ、オオヤマ、カネカワ、ナガタ、シバ、ミヤザト、コジマ、ナカジマ、ヨシノリ、モト、ウエシバ、タカハギ、イトウ、マサミチ、ヒデキ……。皆、死にたいほどに暗く重い過去がある。
そんな彼らに西田は、今日もまた叫んでいる。〈生きろ!!〉



