次期学習指導要領の改訂をめぐり、そのわかりやすさに黄色信号がともっている。元文部科学省キャリア官僚で、現在は広島県総務局付課長、福山市教育委員会学校教育部参与を務める寺田拓真氏は、現行の学習指導要領が現場の教員に十分理解されず、本来の目的を果たしていないとの違和感を表明した。
学校教育の2大課題:動機付けと転移
寺田氏によれば、日本の学校教育には「動機付け(学びに向かわない)」と「転移(学んだことを使えるようにならない)」という2つの最重要課題が存在する。学習指導要領の改訂を含むあらゆる教育改革は、この2つの解決を目指しているという。
不登校の児童生徒数は2024年時点で、中学校では15人に1人、小学校では44人に1人という状況だ。10年前の2014年と比較すると、中学校では36人に1人から約2.5倍、小学校では255人に1人から約6倍に急増している。このデータは、動機付けの課題が深刻化していることを如実に示している。
転移の課題については、平成19年度の全国学力・学習状況調査の結果が象徴的だ。小学校6年生を対象とした問題で、知識を直接問う左側の問題の正答率は96%だったのに対し、応用力を問う右側の問題の正答率はわずか18%だった。寺田氏は「これほどまでに応用が利かない。授業が単なる知識の暗記になってしまっているのではないか」と強い危機感を募らせる。
現行指導要領の目玉「資質・能力ベース」の意図
学力には大きく分けて3つのレベルがあるとされるが、日本の学校教育は最も低い「知っている」レベルにとどまっているとの問題意識から、前回(現行)の学習指導要領改訂では「見方・考え方」を示し、学力レベルを引き上げることを目指した。
寺田氏はサッカーに例えて説明する。「日本の学校教育は、サッカーで言う『ドリブル練習』や『パス練習』にばかり注力しすぎてきた。サッカー練習の最終目標は実際の試合で活躍できる力を育むことだが、練習でどんなにドリブルやパスが上手でも試合で活躍できるとは限らない」。教育をより実際に知識や技能を活用する文脈に近付け、社会生活や職業生活という「試合」で活躍できる力を育む——これが「資質・能力ベース(コンピテンシーベース)」の考え方だ。
学習指導要領が機能しない2つの問題
しかし現状、学習指導要領は十分に機能しているとは言えず、2大課題も依然として解決していない。寺田氏はその背後に2つの問題があると指摘する。
第一に、小学校では「動機付け」の問題が深刻で、不登校の急増が顕著だ。第二に、中学校・高校では「転移」の問題が顕著で、知識の応用力が身についていない。現行指導要領が掲げる「資質・能力ベース」の理念は理解されても、具体的な授業改善に結びついていないのが実情だ。
寺田氏は「次期改訂では、現場の先生にわかりやすい内容にすることが不可欠」と強調する。学習指導要領が難解なままでは、教員の理解が進まず、結局は形だけの改革に終わる危険性がある。元文科省官僚としての経験から、現場の声を反映した実効性のある改訂を求めている。



