天皇、皇后両陛下は6月13日から26日まで、国賓としてオランダとベルギーを公式訪問している。皇室史に詳しい島田裕巳さんは「それに先立つ11日の記者会見において、皇族数確保策について異例の発言をされたが、そこに今上天皇の『怒り』があるといわれている」という。
今上天皇の静かな「怒り」の原因
6月11日、天皇はオランダとベルギーへの公式訪問を前に記者会見に臨んだ。その際、国会で行われている皇族数確保の問題について記者から問われ、そうした議論が「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望んでおります」と述べた。ここに、天皇の「怒り」が含まれるのではないかと各方面から指摘されている。
今進行中の議論に、天皇が自らの考えを表明するのは異例のことである。わざわざ「国民の理解が得られるもの」と求めたことは、天皇の認識として、議論はその方向にむかっていないということになる。間接的な形ではあるが、国会での議論に異議を申し立てているのである。静かな、怒りである。
その原因は国民の側で推測するしかない。だが、皇室典範の改正をめざす人間たちが、「男系男子による継承」という血統のみを重視し、天皇や皇族の在り方や行動についてまったく関心を持っていないことが、天皇に問題視されているはずだ。
その証拠に、この記者会見において、天皇は皇室外交の意義を強調した。それもとくに、訪問先となるオランダとの戦後における関係が複雑だからである。それを今日のような友好的なものにする上で、皇室の果たした役割は相当に重要である。
日本とオランダの悲喜こもごもの国交
オランダに到着した天皇皇后は、王室の別邸であるヘット・アウデ・ロー城に滞在し、そこで、ウィレム・アレキサンダー国王夫妻とともにサッカーのFIFAワールドカップ、日本対オランダ戦をテレビ観戦した。その際に、どちらもそれぞれの国を象徴するタオルを首にかけ、4人で写真におさまったものが公開されたが、アレキサンダー国王は天皇との自撮り写真まで王室の公式インスタグラムに投稿している。
これで、両国の関係がいかに良好なものであるかが強調されたものの、そこに至るまでの過程は決して平坦なものではなかった。というのも、第2次世界大戦において、日本軍は、オランダ領東インド(現在のインドネシアにあたる地域)に侵攻し、そこを占領したからである。しかも、日本軍はオランダ人を強制収容所に収容し、その数は軍人と民間人を合わせ約13万人におよび、多くの死者も出た。
ワールドカップを仲良く観戦している光景からは想像もできないが、日本はオランダの人々を深く傷つけたわけで、天皇はそのことに記者会見でも、オランダでの17日(日本時間18日)の晩餐会でも言及した。そうした過去があったため、1971年に昭和天皇がオランダに立ち寄った際には、日の丸が焼かれるなどの抗議活動まであったのだ。そこから物語がはじまる。
皇室が外交に果たす役割の大きさ
皇室の外交上の役割は極めて大きい。戦後、日本とオランダの関係修復に皇室が果たした貢献は計り知れない。今回の訪問でも、両陛下が国王夫妻と親しく交流する姿は、両国の友好を象徴するものとなった。しかし、現在の皇族数確保をめぐる議論は、こうした皇室の実際の活動や意義を軽視し、血統のみに焦点を当てているとの批判がある。
旧宮家の養子案が生む「皇族予備軍」
政府・与党内で進む皇族数確保策の中心は、旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える案である。これにより、皇族数を維持し、男系継承を維持しようというものだ。しかし、この案は「皇族予備軍」を量産することになり、皇室の本質を損なうとの懸念がある。
恒久的な皇族予備軍が何をもたらすか
旧宮家からの養子受け入れを制度化すれば、将来的に皇族となる可能性のある人物が多数存在することになる。これは、皇位継承をめぐる不安定要因を生み、皇室の伝統や安定性を損なう恐れがある。また、養子となる人物の人生や家族にも大きな影響を及ぼす。
「宮家の養子」になる人物に起きること
旧宮家の若い男性が皇族の養子となれば、その後の人生は大きく変わる。皇室の一員としての厳しい制約や公務が待っており、本人の意思が尊重されるとは限らない。こうした制度が、個人の幸福を犠牲にする可能性もある。
高市首相や麻生副総裁が強く嫌うこと
高市首相や麻生副総裁らは、女性天皇や女系天皇の可能性を強く拒否している。彼らは男系男子による継承に固執し、愛子天皇の誕生を阻止しようとしている。しかし、国民の間では愛子天皇を望む声が多く、世論との乖離が指摘されている。
“本丸”を隠しての皇室典範改正議論
現在の議論では、皇族数確保という表向きの目的が強調されているが、その背後には男系継承を維持するための「本丸」があるとされる。つまり、愛子天皇の即位を阻止し、悠仁親王への継承を確実にするための布石として、皇族予備軍を創設しようとしているのだ。しかし、皇室の在り方や国民の理解を無視した強引な改正は、かえって皇室を不安定にする恐れがある。



