自民党の山口那津男参院議員は6月9日、知財・無形資産の活用を通じて企業価値の向上や日本経済の活性化を目指す一般社団法人「知財・無形資産ガバナンス協会」(理事長:寺田修)の設立1周年記念式典で記念講演を行った。山口氏は、強い日本を作るためには「成長戦略、知財戦略、国際標準戦略の3つについて、どれも欠けてはならない」と強調した。講演は、知財を「守る権利」にとどめず、企業価値や国際競争力を生む「稼ぐ資産」として捉え直す必要性を示す内容となった。
成長戦略・知財戦略・国際標準戦略の一体性
一見すると、成長戦略、知財戦略、国際標準戦略は別々の政策領域に見えるが、山口氏の講演をたどると、これらは1本の線でつながっていることが分かる。「技術を生み出し、知財として守り、企業価値として見せ、国際標準に乗せて世界で稼ぐ。この循環を作れるかどうかが、日本の産業競争力を左右する」という問題提起である。
山口氏は、自民党の知的財産戦略調査会で事務局長を務め、知的財産の創造と保護、国際標準化、コンテンツ戦略、クールジャパン戦略などをめぐる提言の取りまとめに関わってきた。今回の講演では、その提言の方向性を深め、日本が成長分野で勝ち切るために必要な視点を示した。
技術は「知財の器」として捉える
講演の冒頭で山口氏が挙げたのは、水素エネルギー技術、IoT(モノのインターネット)、ドローン、ロボット、フィジカルAIといった成長分野だった。いずれも次世代産業として期待される領域だが、山口氏はこれらを「単なる技術分野としてではなく、知財の器として捉える必要がある」と指摘した。
この発言の背景にあるのは、日本企業が長く抱えてきた課題である。優れた技術を持っていても、それを権利として押さえ、事業として展開し、国際市場で主導権を握れなければ、収益は十分に残らない。技術開発だけで勝負する時代から、知財化、標準化、収益化までを一体で設計する時代に入っている。
山口氏は、「研究開発や成長分野への投資がアセットを生み、そのアセットが知財・無形資産になる」との考え方も示した。成長戦略で投資を進めるなら、その成果をどう知財として守り、企業価値に変え、次の研究開発や増額につなげるかまで考えなければならない。
つまり、成長戦略は単に予算を投じることでは完結しない。投資で生まれた技術やノウハウを、企業や国の競争力に変える仕組みが必要になる。山口氏の講演は、そこに知財戦略を組み込む重要性を示すものだった。
「守る権利」から「稼ぐ資産」へ
山口氏は、知財を「守る権利」から「稼ぐ資産」へと捉え直す必要性を強調した。従来の日本企業は、特許を取得して他社の模倣を防ぐことに重点を置きがちだった。しかし、国際競争が激化する中では、知財を積極的に活用して収益を生み出す戦略が求められる。
具体的には、特許やノウハウをライセンス供与したり、標準必須特許として他社に使用させたりすることで、継続的な収入源とする。また、無形資産としてのブランド価値やデータ資産を活用し、企業価値を高めることも重要だ。
講演では、国際標準戦略の重要性も改めて強調された。技術を国際標準に採用してもらうことで、市場での主導権を握りやすくなる。日本が強みを持つ分野で標準化をリードすれば、海外企業に特許使用料を支払わせる立場になれる。
山口氏は「技術だけで勝てない」と断言。日本企業が持つ高い技術力を、知財と標準化で武装し、グローバル市場で稼ぐ力を身につけることが急務だと訴えた。
知財ガバナンスの重要性
協会の設立趣旨は、企業における知財・無形資産のガバナンスを強化し、経営戦略と連動させることにある。山口氏は、企業の取締役会が知財を経営課題として認識し、適切な管理体制を構築する必要があると指摘した。
特に、中小企業にとっては、知財を活用したビジネスモデルの構築が成長の鍵となる。大企業に比べて資源が限られる中小企業こそ、知財を効果的に活用することで、差別化と競争力強化を図るべきだと述べた。
講演の最後に、山口氏は「日本が成長分野で勝ち切るためには、技術、知財、標準の三位一体の戦略が不可欠だ。政府としても、知財ガバナンスの普及や標準化支援に力を入れていく」と述べ、今後の政策推進に意欲を示した。
協会は今後、企業向けの研修やセミナー、国際標準化の支援などを通じて、日本の知財力を底上げする活動を展開する予定だ。山口氏の講演は、その方向性を後押しするものとなった。



