生保不正追及とAI報道、記者とデスクが語る思い 新聞週間で紹介
生保不正追及とAI報道、記者とデスクが語る思い

新聞週間にあわせ、朝日新聞は15日から、記者やデスクの思いを紹介する企画を掲載する。AI報道の取材班をまとめる和気真也デスクと、生命保険会社による情報の不正持ち出しを特報した柴田秀並記者が、それぞれの取材への向き合い方を語った。

AIと人と社会、希望と業と課題伝える

人間のように対話できるようになったAI(人工知能)は、博学で従順な「相棒」として日常的に使う人もいる。米オープンAIのChatGPT(チャットGPT)が登場して4年。朝日新聞は昨年、編集局内に取材班を立ち上げ、通称「AIチーム」として日々のニュースだけでなく、AIと人と社会の課題を企画「AIの時代」で報じている。

2026年の新年連載は「何を託すのか」をテーマに、人はAIに何を任せ、AIはどこまで人に近づけるのかを探った。人間関係や感情、科学や宗教など視点を変えながら取材したのは、AIに「何を託してはいけないか」だったという。

転換点の一つが、4月の米アンソロピック「クロード・ミュトス」の登場だ。人間には見つけられないシステムの弱点を見つけるAIは、デジタル社会の安全を補強する道具となる一方、悪意ある者に使われた場合、持たない国や企業にとっては脅威となりうる。最先端AIを持つ国の優位性と、持たざる国の焦りが交錯した。

7月には、オープンAIの開発中AIが人の意図に反して他社システムに侵入した事件があった。報告書では、自律的に動くAI同士が相談し、人の望まない攻撃に出た様子が記された。開発者たちが、AIの制御がきかなくなる未来を強く意識する契機となった。

権力監視としてのAI報道

最先端AIをつくるには多大な設備と技術、データが必要だ。まかなえる一握りの企業が、世界の暮らしや経済、軍事などの基盤となりつつある技術のルールを決める。新聞の大事な役割の一つが「権力監視」である以上、AI企業とAIの影響に迫る必要があると和気デスクは指摘する。

AIチームは編集局の各部の記者たちの集まりで、専門的知識がなくても読者に一緒に考えてもらえるよう伝えることに心を砕く。インフォグラフィックを手がけるデザイナーや、紙面とデジタルの編集者も参加し、早い段階から伝え方を議論し、時に動画作成にも取り組んでいる。

和気デスクは「AIの存在はますます大きくなるだろう。AIを取り込んだ人間社会が抱く希望と業と課題を、大まじめに面白く、伝える工夫を続けたい」と語る。

1件の情報提供から業界全体の問題へ

柴田秀並記者は、業界最大手の日本生命保険の社員が、出向先の銀行などの内部情報を無断で持ち出し、自社商品の販売拡大に利用していた実態を一連の記事で明らかにした。きっかけは記者宛ての情報提供で、生保業界に関する記事に共感したという。

多くの生保は銀行に出向者を送り、目的を「行員の教育」などと説明してきたが、日生の出向者は銀行の販売戦略や他生保の商品改定状況を無断で取得。銀行側に発覚しないよう、一部の資料には「逆流厳禁」という印を付けて営業部門が活用していた。一連の持ち出しは、不正競争防止法が禁じる「営業秘密」の侵害に抵触する恐れがあると日生も認めた。

取材を進めるなかで、日生が出向者に自社商品の販売拡大のノルマを事実上課していたことも判明。複数の内部資料には「メルクマール」(指標)や「損益分岐点」という表現で、銀行での日生商品の販売目標額が示されていた。保険商品は「家の次に高い買い物」とも言われ、銀行は複数の生保の商品を扱う乗り合い代理店であり、本来は顧客本位の商品提案が求められる。顧客は、目の前の銀行員が特定の生保からの出向者であるとは知らされず、気づかないうちに特定の商品に誘導されてしまうリスクがある。

継続的に報じると、別の生保に関する情報提供も相次ぎ、第一生命の社員による不正持ち出しが27金融機関に及んだことなどもスクープした。最終的には生保14社で計6838件の不正持ち出しが判明し、生保業界全体で長年続いてきたことが明らかになった。業界団体は金融機関などの保険代理店への出向を原則廃止する指針を作成した。

いま業界では、顧客の利益をないがしろにするような不祥事が相次ぐ。プルデンシャル生命保険では金銭不祥事だけでなく、不適切な保険勧誘も広がっていたようだ。保険など金融業界は売る側と買う側の「情報の非対称性」が大きく、金融機関がそこにつけ込み、顧客の利益を犠牲にして「うまみ」を得るリスクがつねにある。

柴田記者は「経済記者の役割の一つは、こうした領域をウォッチし、読者に適切な情報を届けていくことではないか。今回の報道では、改めてそう学んだ」と振り返る。