リニア容認目前、流域首長が求めた地域振興の「担保」 確認書は具体性欠く
リニア容認目前、流域首長が求めた地域振興の「担保」

5月中旬、大井川流域8市2町の首長らが静岡県藤枝市役所の会議室に集まった。テーマは「地域振興」。リニア中央新幹線静岡工区の工事に伴う流量減少などの不安を抱える流域側が、JR東海にどう要望するか、水面下で目線合わせをするためだった。

この会合で、地域振興に関する書面をJR東海と取り交わす方針がまとまった。県が着工を近く容認するとの見方が強まるなか、同社が地域振興にしっかり関わる「担保」を取らないと、何もメリットを得られずに終わるのではないかとの焦りがあった。

長年の停滞と「水を売った」懸念

そうした焦りを生んだ背景には、JR東海と地域振興をめぐる協議が長年にわたり進まなかった歴史的経緯がある。11年にリニア整備計画が決定すると、川勝平太前知事は東海道新幹線が真下を通る静岡空港への新駅設置を強く求めた。だが13年、トンネル工事に伴い大井川の流量が毎秒2トン減少する可能性が試算され、川勝前知事が静岡工区の着工を認めない状況が続き、地域振興協議も棚上げされた。

Pickt横長バナー — Telegram用の共同買い物リストアプリ

ある首長は「流域側も流量減少への対策を第一とした。地域振興と引き換えに(大井川の)水を売ったとみられたくないという意見が強かった」と打ち明ける。

水問題への対策を求める流域市町の要望活動には当初、工事現場を抱える静岡市も加わった。だが18年、静岡市がJR東海に建設費140億円を全額負担してもらう形で県道トンネルの新設を盛り込んだ基本合意書を結び、流域首長の間で「静岡市に裏切られた」という思いが強まり、活動を別にすることとなった。

地域振興の前進と各自治体の思惑

地域振興の議論が前進したのは、24年に鈴木康友知事が就任し、水問題の対策が煮詰まってからだ。今年2月、JR東海の丹羽俊介社長は流域8市2町に対し、地域振興策を初めて提案。鉄道事業などを通じた観光振興や関係人口創出に取り組む内容で、「流域の市町の皆様と長きにわたり緊密に連携し、発展に尽力して参りたい」と述べた。

ただ、JRの駅の有無など地域事情が異なる中で受け止めはさまざまだ。流域市町で唯一東海道新幹線が止まる駅がある掛川市の久保田崇市長は、ひかりとこだまの増便に期待を寄せる。鉄道駅のない吉田町の田村典彦町長は「うちは観光に来るような町じゃない。交流人口を増やすためにどんなことを考えてもらえるのか、話し合っていきたい」とする。

「空港新駅」を一貫して求めてきた牧之原市の杉本基久雄市長は、リニア沿線ではJR東海の負担で駅をつくることを挙げ、「静岡県も通過県の一つ。他県の中間駅の建設費に見合う振興策を引き出せばいい」と強調する。焼津市の中野弘道市長は「JR東海は企業で、株主がいる。利益が出ないことはできないのではないか。8市2町は水資源を一番に優先し、ごり押しするような要望は言ってこなかった。互いにできることを話し合っていけばいい」と話す。

具体性欠く確認書、今後の課題

各市町の異なる思惑を背景に、今月18日にJR東海と結んだ確認書は具体性に欠けるものとなった。地域振興に関する項目は「流域の経済発展や地域振興に資する取り組みについて、共に連携・協力して推進する」という「最大公約数」の表現にとどまった。

今後の中身をどう詰めるかは見通せない。確認書をとりまとめた藤枝市の北村正平市長は「地域振興をこれから長期にわたって話し合っていくことを担保するのが、今回の確認書だ」と意義を強調し、「8市2町は(水問題に関して)ずっと一緒にやってきた。地域振興も等しく恩恵を受けられるように、流域全体で考えていきたい」と語った。

Pickt記事後バナー — 家族イラスト付きの共同買い物リストアプリ