政府関係機関の地方移転の基本方針決定から10年が経過した。文化庁が京都で新庁舎を構えるなど、地域に根ざした政策立案が進み、効果が出始めている。一方で、移転効果を検証する評価体制が機能していないという課題も浮かび上がる。
移転の経緯と現状
移転は第3次安倍内閣の「地方創生」政策の一環として、2014年12月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に盛り込まれた。42道府県からの69機関の誘致提案を受け、有識者会議を経て2016年3月に中央省庁7機関、研究・研修機関など50件の移転方針が決定した。
有識者会議で座長を務めた増田寛也氏(現・野村総合研究所顧問)は「政府内にあったのは民間企業の本社を地方に移すことで人の流れを変えたい、という考えだった」と振り返る。政府機関の移転は「隗より始めよ」の発想だったという。
中央省庁の移転は限定的で、全面的な移転となったのは文化庁のみ。消費者庁と総務省統計局は徳島と和歌山に新拠点を開設し、特許庁、中小企業庁、観光庁、気象庁は既存の地方拠点の体制強化にとどまった。
文化庁、京都で政策立案の成果
文化庁は2023年5月から京都での業務を本格化し、丸3年が経過した。京都市上京区の旧府警本部本館を改修した新庁舎で、整備費91億円は京都府が負担し、年間約1億4000万円で貸与している。
伊藤学司長官は「京料理や茶道、華道などの生活文化が根づき、外国人観光客を魅了する文化資源も豊富という地の利がある」と話す。具体的な成果として、「食の至宝」制度の創設や、人間国宝の選定対象を生活文化分野に拡大したことを挙げた。
一方で、組織は東京との2拠点状態が続く。庁内9課中、企画調整課など5課が東京に残り、京都が約380人、東京が約200人という配置だ。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題に区切りがついた段階で宗務課が移転する予定という。
消費者庁と国立工芸館の事例
消費者庁の「新未来創造戦略本部」は徳島県庁10階に置かれ、自治体や企業、学術機関から参集した約60人が勤務する。高齢者を消費者被害から守る「見守りネットワーク」は県内全市町村で整備済みで、昨年度は小松島市をモデルにアンケートや研修会を実施した。
国立工芸館は2020年に金沢市へ移転した。石川県は「工芸王国」と呼ばれ、伝統的工芸品は36品目、工芸部門の人間国宝は11人を数える。開館以降、入場者は年間4万~6万人で、23年度は15万人超が訪れた。
研究機関の成果と評価体制の課題
国立健康・栄養研究所は2023年春、大阪府の「北大阪健康医療都市(健都)」に移転した。2024年には摂津市の全18歳以上を対象に323問の大規模調査を実施し、約1万3300人から有効回答を得た。妊婦の栄養摂取状況や身体活動の調査も始めている。
政府の専門家委員会は移転効果を測るため、3つの評価観点、14項目、59の指標を設定した。2024年3月に初の評価結果が公表されたが、アンケート結果のみを基データとしており、4分の1の機関は対外的なアンケートを実施せず自己採点の色合いが濃い。また、調査はこの時以降、1度も行われていない。
増田氏は「政府には課題を正確に把握・分析して、さらなる成果につなげていく責務がある。一方、受け入れた自治体側にも誘致の時と変わらぬ熱意で協力を続ける責任がある」と説く。高市内閣の「地方創生に関する総合戦略」には第2弾の移転募集を示唆する文言があるが、現状、具体的な動きは見えていない。



