昨年3月、香川県立アリーナ(高松市)でプロジェクションマッピング(PM)が3日間実施された。県が約8500万円を投じた夜型観光の目玉で、約3万3000人が来場。推定経済効果は最大約2億4000万円とされる。池田知事は県議会で「幅広い世代に訴求する夜型観光コンテンツになる」と述べた。
議会の関与とデザイン論争
県議会の議事録によると、県立アリーナでのPM実施を主張したのは、最大会派・自民党県政会だ。県は2019年にアリーナの基本設計を決定。県政会は当初、独自の形状を「デザイン偏重だ」と批判していた。大山一郎県議は19年の議会で「四角形の外壁なら、はやりのPMなどでにぎわいづくりもできる。デザインにお金をかけずとも、話題性のある建物はできたはずだ」と訴えた。
池田知事就任後、アリーナ完成を控えた24年7月、大山県議は「議会は機能重視を言ってきたが、残念なことにデザインを重視したものができあがった」と述べつつ、「今後はデザインを全面的に利用するのが一番良い。PMをやれば素晴らしいものができる」と再提起した。当時、県はPMのPR方法を具体的に検討していなかったが、3か月後の同年10月に実施方針を表明。それから5か月で開催に至った。
他自治体との費用比較
東京都が都庁で実施するPMは24年度以降、毎日の投影で年約7億7000万~約9億3000万円を負担。長野県松本市の国宝・松本城のPMは2か月間で年約5400万~約6100万円を拠出する。香川の3日間で8000万円超という支出は「高額では」との疑問が生じた。
透明性をめぐる問題
植田真紀県議は昨年、PMの映像制作や上映を担った企業を審査した経緯を示す文書などを情報公開請求したが、県は「文書は存在しない」と返答。主催は「県立アリーナを活用した観光コンテンツづくり事業実行委員会」で、県は文書を持っていないとの理屈だ。審査をした委員名も非公開とされた。県は取材に「特殊な形状に投影するため、高度な技術が必要だった。鉄塔の上に高性能のプロジェクターを置くなどした」と説明。実行委主催の理由は「民間事業者との連携を強化するため」とした。
しかし、当時、実行委の収入は県の負担金のみで、事務局は県庁内にあった。植田県議の申し立てを受け、今年4~6月、情報公開の有識者審査会は「実質的には県の事業」などと指摘。池田知事は「県の事業同様に公開されるべきだ」と語った。県幹部ら委員の名前も示され、審査文書も開示されたが、企業の提案書が大半で黒塗り。経費の妥当性が審査されたかどうかは不明だ。
専門家の指摘
鹿児島大の宇那木正寛教授(行政法)は「実行委では県事業よりも柔軟でスピーディーに公費を扱える。公費の割合が高い事業は、より積極的に情報を公開し、わかりやすく説明することが重要だ」と指摘。岐阜県は「責任の所在があいまい」として実行委方式の見直しや情報開示を掲げ、神奈川県は19年度予算編成時に実行委方式を予定した149事業を点検し、県が全額負担する8事業は県主催に切り替えた。
一方、香川県は25年度も実行委が県立アリーナでPMを2回実施。周辺でのクリスマスマーケットも手がけ、県の負担は計4億円。企業の協賛金は寄付を含め約3200万円だった。経済効果は推計で最大計40億5000万円とした。実行委は今年度、PMを行わず、ビールなどを楽しむイベント「オクトーバーフェスト」などを開く予定で、県は3億2000万円を負担。今後、ウェブサイトで事業計画や決算を公表するという。
実行委が示す経済効果の推計について、宇那木教授は「目に見えない指標で事業の公益性が証明されたというのは説得力を欠く。税収増や県民への還元策が示されて初めて納得できる」と話す。龍谷大の南島和久教授(政治学)も「夜型観光の充実が目的なら、周辺ホテルの埋まり具合や宿泊価格の上昇で説明すべきだ」とする。



