静岡リニア工事が呼び覚ました「水返せ」の記憶 JRから引き出した異例の補償
静岡リニア工事が呼び覚ました「水返せ」の記憶 JRから異例の補償

昨年10月、静岡県島田市の染谷絹代市長が大井川源流部を訪れた。リニア静岡工区近くの田代ダムや残土置き場を見て回るのは16回目。毎回新任の部長を連れ、「私が市長でいる限り、毎年、この目で現場を確認しよう」という思いだ。

水問題の発端

2013年9月、染谷市長が初当選して4カ月後、JR東海がトンネル工事で大井川の流量が毎秒2トン減少する可能性があるとの試算を公表。大井川は流域約60万人の水源で、「流域市町の不安や心配が一気にかき立てられた」と染谷市長は振り返る。

「水返せ」の記憶

かつて水量豊かだった大井川は、上流の水力発電所建設で水が減少。1960年の塩郷堰堤完成後は「河原砂漠」と呼ばれるほどに。80年代には流域住民が電力会社に「水返せ運動」を展開した。「表流水が消えてしまった時代があり、水返せ運動に携わっていた人たちの危機感はすごく大きかった」と染谷市長。

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JRの冷たい対応

一方、JR東海の対応は「冷たかった」。島田市は住民説明会を何度も求めたが、「『できません』と断られた。(静岡工区の)『地元』といったら、静岡市井川地区だと思っていたのでしょう」。焼津市の中野弘道市長も「リニア問題に限らず、上から目線の態度だと感じた」と語る。

協議会の設立

流域8市2町と利水団体は2018年、県とともに「大井川利水関係協議会」を設立。JRへの交渉窓口を県に一本化し、工事で出た湧水の全量を川に戻すよう求めた。県は当時、川勝平太前知事が着工認めない方針で、吉田町の田村典彦町長は「川勝前知事が先頭に立ち、動いてくれたおかげで水問題がクローズアップされ、(県と流域市町の)一体感が醸成されていった」と話す。

異例の補償合意

JR東海は2015年、導水路トンネル設置などの減水対策を示したが、工事期間中の全量戻しは約束せず。2022年にようやく田代ダム流入量を制限する案を提示。川勝前知事が2024年に辞職し鈴木康友知事に代わると協議が進み、今年1月、県とJR東海は補償確認書を取り交わした。請求期限や期間に上限を設けず、地元に立証責任を求めない内容だ。

着工容認へ

3月には県の有識者専門部会がJR側の対策案を全て了承。今月7日、鈴木知事が着工容認を表明した。同日、染谷市長は「(水問題)のリスクはほぼ解決したという認識に至ったが、(工事による)不確実性は残る」としながらも、「スルーしてしまえば、これだけ深く調べることも議論することもなかった。他県で結んでいないような約束までこぎ着けられた。決して無駄な時間ではなかった」と語った。今年10月にも現地視察を予定。県は国と連携し、モニタリング部会を新設し、工事監視を通じて住民の不安解消を図る。

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