ミャンマー伝統の日焼け止め「タナカ」が、継承の危機に立たされている。古くから老若男女に親しまれてきた天然の化粧品だが、2021年の国軍のクーデターから続く武力衝突と経済の悪化で、需要も供給も落ち込んでいる。
千年続く伝統、農家も愛用
中部メティラの農家ティティフラインさん(54)は、両親の代から40年間タナカを栽培してきた。自宅前の農園には高さ4~5メートルのタナカの樹木が150本ほど植えられている。「人生で塗らなかった日はない」と言うほど、自らも愛用してきた。
一日の始めにタナカを顔に塗り、就寝前の仏へのお祈りの時にも塗る。「伝統薬として子どもに飲ませる人もいて、塗ると幸運が訪れるという言い伝えもあるんです」と笑う。記者も勧められて顔に塗ると、ひんやりした清涼感と、草木のほのかな香りが心地よく感じられた。
気候に合った天然化粧品
タナカはミカン科の植物で、樹皮を石の板ですった粉を水で溶き、顔や体に塗る。紫外線を防ぎ、肌を冷やす効果があるとされ、暑い時期は気温40度を超すミャンマーの気候に合った天然の化粧品だ。おしゃれ感覚で丸や渦の模様を描く人もいる。黄色くほおや額を染め、伝統衣装の巻きスカート「ロンジー」とサンダルを履いた市民の姿は、ミャンマーを象徴する光景の一つだ。
20年には、政府が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産への登録を申請。起源には諸説あるが、タナカ研究者のアウンテイさん(65)によると、11~13世紀に栄えたバガン王朝時代には現在と同様の用途でタナカが使われていたことが壁画などから確認され、「1千年間、ミャンマーの生活に根付いてきた」と語る。
クーデターで需給崩壊
だが、21年のクーデターを機に、タナカを取り巻く環境が大きく変わった。ティティフラインさんは「需要が激減したことで価格が暴落し、出荷を取りやめた」と言う。背景にあるのが国内の貧困拡大で、タナカを買う余裕がない人が増えている。



