世界では「肥満治療の革命」が進行中だ。2026年にはアメリカ内科学会が肥満症診療ガイドラインを改訂し、GLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)のセマグルチド(オゼンピックなど)とチルゼパチド(ゼップバウンド)を肥満症に対する第一選択薬として推奨した。これらの薬の開発に貢献した研究者たちは、医学界のノーベル賞とも呼ばれるラスカー賞を受賞している。
日本ではなぜGLP-1薬が批判されるのか
ところが、日本はこれとは対照的だ。科学的な有効性や患者の利益とはかけ離れた議論が渦巻いている。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師は、その背景にメディアの偏向報道や専門医の縄張り意識があると指摘する。
今もなお根強い「食事・運動」精神論
日本の医療界では今もなお「肥満は食べすぎや運動不足の結果であり、怠惰や自己管理不足、自己責任の問題だ」という見方が根強い。そのため「やせるには食事と運動が重要で、最後は本人の努力次第」という精神論が支持されやすい。
実際、日本ではBMIや合併症の基準を満たすだけでは、GLP-1薬を健康保険で使うことはできない。専門施設で6カ月以上にわたり食事療法と運動療法を継続し、その間に少なくとも2カ月に1回の栄養指導を受け、それでも十分に減量できなかった人だけが健康保険で使用できる。GLP-1薬の使用を早期から検討するアメリカとは大きく異なる。
もちろん、食事や運動は重要だ。上医師も外来診療では必ず患者に説明する。しかしながら、「GLP-1薬を開始するにあたり、すべての患者に半年もの間、食事・運動療法を義務付けることには賛同できない」と述べている。
美容と医療を混同する報道
メディアの報道も問題だ。日本ではGLP-1薬が「やせ薬」として美容目的で使用されるケースが取り上げられ、医療としての正当な使用が軽視されがちである。上医師は「美容と医療を混同する報道が、GLP-1薬への偏見を助長している」と指摘する。
利害関係者の思惑が影響
さらに、肥満治療に関連する利害関係者の思惑も無視できない。例えば、減量指導を行う専門医や栄養士、運動指導者などは、GLP-1薬の普及によって自身の役割が減少することを懸念している可能性がある。上医師は「専門医の縄張り意識が、GLP-1薬の適正な普及を阻んでいる」と語る。
十分なデータの蓄積と発信を
上医師は、日本でもGLP-1薬の有効性と安全性に関する十分なデータを蓄積し、積極的に発信する必要があると訴える。「世界のエビデンスを踏まえ、日本の患者に最適な治療法を提供するためには、医療界全体の意識改革が不可欠だ」と結論づけている。



