「無料で朝食が食べられる」「部屋をアップグレードしてもらえる」「ラウンジを利用できる」――。そんな特典に魅力を感じ、ホテルの上級会員資格を目指して宿泊を重ねる、いわゆる「マリオット修行」。上級会員になれば、客室のアップグレードやレイトチェックアウト、無料朝食など、さまざまな優遇を受けられる。もともと出張や旅行が多く、その結果として資格を得られるのであれば、これほどありがたい制度はないだろう。
だが、問題は“特典をもらうために泊まる”ようになったときだ。上級会員になるために宿泊数を稼ぎ、泊まりたいわけでもないホテルを予約する。ステータスを維持するため、翌年もまた宿泊を重ねる。気づけば「お得になるため」に、数十万円ものお金を使っていた。果たして、そのステータスは本当に支払った金額に見合っているのだろうか。
これまで数多くの家計相談に乗ってきたファイナンシャルプランナーの鳥海翔氏は、「将来お得になる」という思いから、本来必要のなかった支出を増やしてしまうケースに注意を促す。
20万円使って「朝食無料」をゲットする人も
マリオットの上級会員資格を目指す人のなかには、必要な宿泊実績を積むため、自宅近くのホテルを予約したり、週末を使って系列ホテルを泊まり歩いたりする人もいる。もちろん、ホテルに泊まること自体が趣味で、その過程を楽しんでいるのであれば問題はない。しかし、「上級会員になれば将来お得だから」という理由で、本来必要のなかった宿泊を増やしているとしたら、一度計算してみる必要がある。
「例えば1泊2万円のホテルに、本来必要のない宿泊を10泊すれば20万円です。その20万円で得られるものが『朝食無料』や『チェックアウト時間の延長』だとしたら、本当に見合っているのか。一度冷静に計算したほうがいいですよね。それでも『次に泊まるときにお得になるから』と考えている方は多いんです」(鳥海氏、以下同)
本来、上級会員向けの特典は、ホテルを頻繁に利用した結果として受けられるものだ。ところが、ステータスそのものを目的にし始めると、いつの間にか順番が逆転する。「ホテルによく泊まるから上級会員になる」のではなく、「上級会員になるためにホテルへ泊まる」。無料朝食やラウンジ利用、レイトチェックアウトといった特典は確かに魅力的だが、その特典を手に入れるために使った宿泊費まで含めて考えれば、必ずしも「得」とは限らないのだ。
エリートほどマリオット修行にハマる?
ここで興味深いのは、マリオット修行にのめり込む人が、必ずしもお金の知識に乏しいわけではないことだ。むしろ、普段の仕事では数字や費用対効果を厳しく見るビジネスパーソンでも、プライベートでは数十万円をステータス獲得のために使ってしまうことがあるという。場合によっては、日頃から数字に強く、自分は合理的に判断できているという自信がある人、いわゆる「エリート層」ほど、こうした罠にハマりやすい面もあるのかもしれない。
その背景の一つにあるのが、「サンクコスト(埋没費用)」の心理だ。「あと1泊すればステータスが上がる」「ここまで泊まったのだから、今やめたらもったいない」「せっかく手に入れた資格を来年も維持したい」――そう考えるうちに、それまで使ったお金や時間が惜しくなり、途中で引き返しにくくなっていく。本来であれば、「これから使うお金に、それだけの価値があるか」で判断すべきだ。しかし、「ここまでお金を使ったのだから」という過去の支出が、次の宿泊を決める理由になってしまう。
「ご本人には浪費している感覚がなく、『将来のために今お金を使っている』という、積立投資に近い感覚を持っていることがあります。でも、『そのためにいくら使って、いくら分のメリットを受けていますか』と聞くと、正確には答えられないことが多いんです」
「あと1泊」が危ない…ステータス維持の落とし穴
マリオット修行で特に注意したいのが、ステータスを一度獲得した後だ。苦労して上級会員になれば、「せっかく手に入れた資格を失いたくない」という気持ちが生まれる。すると、翌年もステータスを維持するために宿泊実績を追いかけ、本来予定していなかったホテルに泊まる。前年にかけたお金や時間が大きいほど、「ここでやめたら全部無駄になる」と感じやすくなる。
しかし、鳥海氏は「過去にいくら使ったか」と「これからそのステータスを維持する価値があるか」は分けて考えたほうがいいと話す。「大事なのは、そのステータスを得るためにいくら使うのか、そして実際にどれくらい特典を使うのかを一度計算してみることです。例えば年間で何回朝食を無料で利用するのか、ラウンジを何回使うのか。そこに自分が払う宿泊費を並べてみれば、本当に得をしているのかが見えてきます」
上級会員資格を持っているだけで得をするわけではない。特典を実際にどれだけ使うのかによって、その価値は大きく変わってくる。旅行や出張で頻繁にホテルを利用する人と、年に数回しか宿泊しない人では、同じステータスでも得られるメリットはまったく違うのだ。
その「無料特典」に、いくら払っていますか?
マリオット修行そのものが悪いわけではない。ホテルに泊まることが好きで、修行の過程も含めて楽しみ、上級会員の特典にも十分な価値を感じているのであれば、それは趣味として成立している。一方で、「お得になるため」に始めたのであれば、一度確認してみたい。上級会員になるために、いくら使ったのか。ステータスを維持するために、これからいくら使うのか。そして、その対価として受ける無料朝食やラウンジ、アップグレードを、本当にそれだけ利用するのか。
「得した金額」だけではなく、「得するために支払った金額」まで計算してみる。20万円を使って得た「無料朝食」は、本当に無料だったのか。そこまで考えて初めて、そのマリオット修行が自分にとって本当に“お得”なのかが見えてくるのかもしれない。



