トヨタ自動車が2014年に発売した燃料電池車(FCV)「MIRAI」は、水素を燃料とし、走行時に二酸化炭素を排出しない次世代エコカーとして注目を集めた。しかし、発売から10年近くが経過した今、その販売台数は伸び悩み、水素供給インフラの整備も遅れている。FCVは本当に普及するのか、現状を分析する。
販売台数は低迷、世界的にも苦戦
MIRAIの累計販売台数は、2025年時点で世界約3万台にとどまっている。これは、トヨタが当初目標とした台数を大きく下回る数字だ。特に日本国内では、2024年の新車販売が約800台と低迷。水素ステーションの数が少ないことが最大のネックとなっている。一方、同じくFCVを販売するヒョンデ(旧現代自動車)の「NEXO」も、世界累計販売台数は約4万台と、やはり普及途上にある。
水素ステーションの整備が進まない理由
水素ステーションの整備は、コストと需要の悪循環に陥っている。1基あたりの建設費は約4億円と高額で、維持費もかかる。さらに、FCVの台数が少ないため、ステーションの稼働率が低く、採算が取れない。日本全国の水素ステーションは約170カ所(2025年現在)と、ガソリンスタンドの約3万カ所に比べて圧倒的に少ない。このため、ユーザーは「水素切れ」の不安を抱え、購入を躊躇する。国は補助金を出しているが、抜本的な解決には至っていない。
技術的優位性はあるが、コスト競争で苦戦
FCVの技術的な優位性は、航続距離の長さと燃料補給の速さだ。MIRAIは1回の水素充填で約850km(WLTCモード)走行可能で、充填時間は約3分と、電気自動車(EV)の急速充電よりはるかに短い。しかし、車両価格は約700万円と高く、EVと比べてコスト面で劣る。また、水素の製造コストも高く、水素1kgあたり約1,000円と、ガソリン換算でリッターあたり約100円と割高だ。燃料電池システムのコスト低減が進んでいるとはいえ、EVの急速なコスト低下には追いついていない。
商用車への展開が鍵か
トヨタは、FCVの普及には乗用車よりも商用車が適していると考え、大型トラックやバスへの燃料電池システムの供給を強化している。実際、燃料電池トラックは、航続距離や積載量の面でEVより有利とされる。トヨタは、2025年までに燃料電池システムの累計販売台数を10万台以上に引き上げる目標を掲げている。この目標達成には、商用車向けの需要拡大が不可欠だ。
水素社会実現への道のり
政府は「水素基本戦略」を策定し、水素供給量を2030年に年間300万トン、2040年に1200万トンに増やす目標を掲げる。しかし、現状の水素供給量は年間約200万トン(2023年)と、目標達成には大幅な拡大が必要だ。また、水素の製造方法も課題で、現状は化石燃料から作る「グレー水素」が主流だが、二酸化炭素を排出しない「グリーン水素」への転換が求められる。コスト低減と環境負荷低減の両立が、水素社会実現のカギを握る。
トヨタのMIRAIは、技術的には優れたクルマだが、普及にはインフラ整備やコスト低減など、多くの課題が残る。FCVが真のエコカーとして広く受け入れられるかは、今後の技術革新と政策支援にかかっている。



