パナソニックホールディングス(HD)が5月に発表したグループ成長戦略の中に、創業者・松下幸之助が真の使命を知ったことを意味する「命知」という言葉が盛り込まれ、関係者の間で驚きをもって受け止められた。これは、幸之助イズムを経営の基本に据え直す原点回帰を宣言したものにほかならない。
「命知」とは何か
「命知」は昭和7(1932)年、幸之助が「物心一如の繁栄」(物と心が共に豊かな理想の社会の実現)を真の使命と知ったと社内に宣言したことに由来する。この時、幸之助は「生活物資を、水道水のように大量に低価格で提供して、貧しさを除く」という「水道哲学」を唱えたことで知られる。
同社が「何の会社か」と問われた楠見雄規社長は「創業者が確立した経営基本方針に則(のっと)って経営する会社だ」と言い切る。人工知能(AI)関連分野など最先端技術を駆使する企業が昭和初期の歴史を掲げることに「なぜ今」と疑問もわいた。
成長戦略の軸
成長戦略は、この命知から100年となる令和14年に向け、AIインフラと社会オペレーションを支える2事業に注力する道筋を描く。
「経営の神様」と呼ばれた幸之助は同社を一代で世界的企業に育て上げた人物だ。ただ平成元年の死去後、同社を取り巻く経営環境の変化に伴い、さまざまなことが起きた。
過去の改革と決別
松下電器産業時代の平成13年度に創業以来初の赤字決算を経験した中村邦夫社長は「破壊と創造」を掲げ構造改革を断行した。「水道哲学」に基づく大量生産と販売の仕組みは確かに同社を巨大企業へと押し上げた。工場を全国に広げ、系列販売店で売りさばく総合力で競合他社を圧倒したが、右肩上がりの成長期が終わると通用しなくなっていた。
それでも幸之助がつくった仕組みは聖域化し改革を遅らせていた。中村氏は「創業者の経営理念以外、すべて見直す」と宣言。幸之助が作り上げ、強さの源泉だった事業部制などにメスを入れた。世間は「ついに松下は松下幸之助と決別した」と騒いだ。



