西陣織工業組合(京都市上京区)は今年から5年間の行動指針となる「第10次西陣織産地振興対策ビジョン」を策定した。和装市場の低迷など経営環境が厳しさを増す中、組合を率いる小平真滋郎理事長(織匠小平社長)(68)は「連携と協働」を再生のキーワードに掲げ、若者への情報発信や人手不足への対応を進める考えを示した。
出荷額は約2500億円から169億円に
小平理事長は、24歳で働き始めた1982年に約2500億円だった西陣織産地の総出荷額が、2023年には169億円に減少したと説明。ライフスタイルの変化できもの離れが続く中、コロナ禍で冠婚葬祭が激減し、簡素化も浸透してきものを着る機会が減ったことが大きいと振り返る。
その一方で「明るい材料もある」とし、成人式の振り袖需要は根強く、夏の浴衣人気などカジュアルな和装への若者の関心も増えていると指摘する。
「着たいから着る」をどう増やすか
若者を取り込むには、「着なければならないから着る」ではなく、「着たいから着る」ようにすることが重要だという。そのために伝えることは多く、着付けや手入れは思われているほど難しくなく、生産工程が分かれば「『これだけ手間がかかっているのだから、これくらいの値段はする』と理解していただけるはずだ」と話す。
情報発信にも力を入れる。従来は流通に任せてきたが、産地も積極的に取り組み、第10次ビジョンではきもののイベント情報などについて組合のサイトやSNSでの発信を盛り込んだ。きもの姿で嵐山の渡月橋を歩くのがおしゃれと考える若者が増えており、そうした街の動きも発信して広めたい考えだ。「大谷翔平選手のようなホームランはいきなり出ない。こつこつと積み重ねていく」と語る。
人手不足と「連携と協働」
人手不足は深刻さを増している。小平理事長によると、産地の高齢化は30年前から言われてきたが、これまでは何とかやってこられた。ただ、関連工程によっては廃業が顕著で、このまま進めば全体の流れが途絶えかねないという。製織工程の外注先である「出機」の担い手も同じく高齢化が進む。組合として呼びかけているのが「連携と協働」だ。
具体的には、従来と異なる協業体制を構築する。組合員と関連工程との協業があれば、関連工程同士の協業もある。1人の職人や技術者が複数の工程をこなせるようにする「多能工化」や、組合が主導する共同事業化も考えられるという。
若い人が産地に入ってこないのは「仕事に見合った給料を出せていないから」と指摘。危機的状況にある関連工程では後継者育成の支援制度を創設する必要があると訴える。
伝統と革新の融和を
今後の課題は伝統と革新をいかに融和させるかだとし、産地を維持するのは技術と資本と人だと語る。AI(人工知能)などの技術革新で人と置き換わる部分があるかもしれないが、「AIに制覇されることはない」と断言。職人芸と人間の感覚で西陣織は支えられているからだ。
「成功するにしても失敗するにせよ、やってみないと分からない。組合員の挑戦を支えるプラットフォーム(基盤)をしっかりさせるのが組合の役割だ」と話し、前向きな挑戦を後押しする考えを示した。
西陣織とは
西陣地域で作られる高級絹織物の総称。あらかじめ染めた糸(先染め)を用い、職人たちが分業体制で織り上げる。西陣織工業組合によると、企画・製紋、原料準備、機準備、製織、仕上げの5ブロック16工程があり、同組合は製織ブロックに携わる「織屋」(機屋)で構成する。製織以外の4ブロックを示す「関連工程」にもそれぞれ組合組織がある。



