仕事と「妊活」の両立に悩み、人知れず葛藤を抱える人は少なくない。そうした人たちの離職を防ぎ、長く働いてもらうために、本格的な支援へとかじを切る企業が出てきた。先行する取り組みと、制度を機能させるための課題を探った。
卵子凍結の費用補助で「安心感」
パナソニックホールディングス傘下のパナソニックコネクト(東京)に勤める30代前半の女性社員は、令和6年に卵子凍結を行った。きっかけは婦人科系の病気を経験したこと。将来の妊娠・出産への葛藤とともに、自身の体への不安も感じるようになったという。
「卵子凍結をしようと決めたら、自分の中で一つの選択肢を確保できたという安心感が生まれ、将来への向き合い方が少し楽になった」と振り返る。採卵・凍結にかかった費用は約46万円。東京都から20万円の助成を受け、残りの約26万円は会社が負担した。
同社は令和5年から34歳以下の女性社員を対象に、40万円を上限に卵子凍結の初期費用(採卵・凍結)の補助を開始。凍結卵子の管理費として年約12万円は自己負担しているが、「初期段階で自己負担が必要なかったことも卵子凍結を始める上での大きな後押しとなった」と話す。
不妊治療と仕事の両立、課題は「スケジュール調整」
不妊治療では、月経や排卵のタイミングに応じた不定期の通院が必要だ。東邦大学医学部教授で産婦人科医の片桐由起子さんは「卵子の成熟度や予測される排卵日に合わせて治療の日程を組むことになる」と説明する。
丸井グループ(東京)が昨年10月、不妊治療経験のある30人の従業員に聞いた調査では、仕事との両立で最も大変だったこととして約7割が「スケジュール調整」を挙げた。また4人に1人が不妊治療をしていることを職場で「誰にも伝えていない」と回答。「うまくいかなかったとき気を使われるのが嫌」と語る従業員もいた。
同社は昨冬、不妊治療への職場理解を広げようと従業員向けの動画研修を実施。今年4月には月8時間の取得が可能な不妊治療のための特別休暇を導入し、わずか2カ月余りで約20人が利用した。
外資系ではさらに支援を拡大する動きがある。今年6月、ドイツ系製薬会社メルクの日本法人メルクグループジャパンは、正社員と契約社員、そのパートナーの「妊活」への助成上限額を315万円から10万ユーロ(支払いは円、約1800万円相当)に引き上げた。女性社員の卵子凍結に加え、男性不妊の治療や体外受精なども対象としている。
「特別扱い」への警鐘、全従業員の働き方改革を
支援制度の拡大に伴い、新たな課題も浮かび上がる。一部の社員への「特別扱い」と受け取られ、他の社員の反感を買うリスクを指摘するのは、企業の就業制度に詳しいリクルートワークス研究所(東京)の萩原牧子主幹研究員だ。
「先行して支援策が進んだ育児や介護が示すように、制度を当事者限定にすると、周囲から『あの人だけずるい』という不満が生まれやすい」と指摘する。そうなると、当事者は罪悪感を抱いて制度を使いづらくなってしまう。
仕事と個人の事情との両立が必要になるのは、不妊治療中の社員だけとは限らない。萩原さんは「制度があっても必要なときに選択できなければ意味がない」とし、妊活に限った支援にとどまらず、全従業員を包括した働き方のアップデートを図る視点が求められているとしている。



