破産手続きに入ったクレジットカード決済代行「全東信」(大阪市)への融資が全国の信用金庫や信用組合で膨らみ、損失が生じている問題で、金融業界に詳しい家森信善神戸大教授は、低金利下の「金余り」やビジネスモデルへの過信、同調心理の3要因が重なったと指摘する。金融庁の審議会座長などを歴任した家森教授に構造的な課題や今後のあり方を聞いた。
全東信破綻の影響と融資膨張の背景
家森教授はまず、「全東信の破綻で、同社の決済サービスを利用していた中小事業者に深刻な打撃が広がる」と危惧する。クレジットカード決済は売上金の入金まで半月から1か月かかるため、キャッシュフローを補うために全東信を使っていた飲食店などは多く、売掛金が回収不能になれば資金繰りが急迫する。地域経済への影響は大きくなりかねない。
一方で、金融システム全体を揺るがすような波及は生じていないとし、「問題の本質は、個々の金融機関における信用リスクの管理や顧客の実態を見極める能力にある」と述べた。
全東信は粉飾決算を行っていたとされる。なぜ多くの信金や信組が融資を膨らませたのか。家森教授は大きく三つの要因を挙げる。
3つの要因:金余り、過信、同調心理
1点目は、この10年ほど続いた低金利下での「金余り」だ。メガバンクは海外やM&A手数料で収益を上げていたが、地域金融機関は資金需要の乏しさに悩み、「お金を借りてくれるところがないか」と模索してきた。信金や信組ほど貸し出しによる利息収入の比重は大きい。
2点目として、全東信のビジネスモデルへの過信があったのではないか。同社は大手カード会社に対する債権を持ち、金融機関には回収の確実性が高そうで安心できる債権を持つ会社に見えた。住宅ローン金利が1%を切る時代に、高い手数料を「日銭」で得られるビジネスは魅力的に映った。
もう一つは、60を超える金融機関が融資に名を連ね、「他行も貸しているから大丈夫だろう」という「みんなで渡れば怖くない」心理だ。資金の流れを誰も十分に把握しないまま融資が膨らんだ可能性がある。リスクを察知し取引を中止しているメガバンクがある以上、各地域金融機関がどのような審査やモニタリングを行っていたのか、事実に基づく検証が必要だと家森教授は指摘する。
信金・信組の本来の役割と貸し出し規制
信金や信組は営利企業の銀行とは異なり、地域の中小企業や住民が相互扶助の考えで設立した協同組織だ。地域内で資金を還流させる役割を担い、税制優遇がある反面、営業エリアや融資対象に制約がある。
今回、債権額が最も大きかった近畿産業信用組合(大阪市)は「全東信への融資を通じて間接的に中小飲食店を支えていた」という見解を出した。家森教授は、非営利組織への融資で間接的に社会的活動を支えるのと同様に、こうした論理自体は考え方としてあり得るとする。
特定の取引先への融資集中を抑える限度枠は定められており、金融庁は大口取引先の継続的なモニタリングも求めている。全東信への融資は同社が営業拠点を置く地域の信金と信組が行っており、現時点で特段の問題は見当たらない。今回の事案だけを理由に直ちに貸し出し規制を強化するのは適切ではなく、「まずは各金融機関で既存の法令や内部規定が守られていたのか、大口与信の管理や経営陣のチェック機能が十分だったのかを確認すべきだ」と述べた。
必要なのは貸し出しを一律に抑えることではなく、企業の実態把握や融資の集中管理、監査の実効性を高めることだ。地域を限定する制度上の制約は「簡単に地域から撤退しない」という意味でもあり、信金・信組はこの規制を強みとし、地域に密着して泥臭く応援するビジネスモデルに活路を見いだすしかないと強調する。
事業性評価の重要性と人材不足
家森教授が座長を務めた金融審議会の「地域金融力の強化に関するワーキング・グループ」は昨年、報告書をまとめ、地域金融機関の最大の強みを「事業性評価」を基礎に顧客企業を深く理解することだと整理した。事業性評価は「地域企業だから支援する」「成長企業だから貸す」といった単純なものではなく、企業の強みや将来性を把握すると同時に、事業の弱点や内在リスクを十分に理解することにある。
全東信の問題で、地域企業への積極的融資や支援の方向性そのものが否定されるわけではないが、取引先の事業内容や資金の実際の流れ、他社も含めた実質的な借り入れ状況といった評価がしっかりできていたかには大きな疑問が残る。「金余りの環境で、取引先の実態を見極める職員の『目』が弱っていたのではないか」と家森教授は指摘する。
信金・信組の本来の強みは「フェース・トゥ・フェース」で取引先と一緒に汗を流し、伴走支援することにある。経営層からは「現場の人材が不足している」という声もよく聞く。自前で十分な体制を組む余力がないのであれば、近隣の信金・信組との再編・合併を選択肢に入れるのも一つの手だろう。表面的な数値や名目に惑わされず、事業性評価を行うことこそ地域金融機関の融資にとって真の出発点であると結んだ。
信金・信組の閉鎖性打破へ
全国に信用金庫は254、信用組合は143あり、地銀の約4倍の多さだが、利用者が限られる分、閉鎖的になりやすい面がある。金融庁は家森教授が座長を務めた作業部会の報告書に基づき監督体制の強化などを打ち出し、全東信問題を受け与信管理に関する実態調査にも乗り出している。経営の自律性を促すためにも徹底した点検が欠かせない。
株式会社の銀行は「物言う株主」との対峙や指名委員会等設置会社への移行など外部の目を入れる改革が進む。信金や信組では、株主総会にあたる総代会が機能し、真摯に経営陣と向き合うことが閉鎖性打破の鍵となると記事は締めくくっている。



