ホテルの運営責任者となる「支配人」に、若手を登用する動きが広がっている。若者ならではの視点や発想を生かして差別化を図り、訪日客や若い世代を取り込む狙いだ。支配人はホテルの運営全般を経験できることから、将来的に起業を目指す若者にとっても魅力的な仕事となっている。
ロイヤルホテル、30代の現場未経験者を総支配人に
全国に17のホテルを展開するロイヤルホテルは、今年4月にオープンした「アンカード・バイ・リーガ 大阪なんば」(大阪市浪速区)の総支配人に、入社以来、主に宴会やイベントの営業を担当してきた宮脇健輔さん(37)を起用した。
1935年創業のロイヤルホテルは、格式を重んじ、総支配人も宿泊や宴会といった現場を経験した上で、部門長や副総支配人を経て50歳代で就任するのが大半だった。ホテルの現場経験がない30歳代は初めてという。
今回の抜擢は、新たに導入した総支配人の社内公募制に基づく人事で、創業100年を迎える2035年に向けて、新たに20ホテルの新規開業を目指す戦略の一環だ。接客の質だけでなく、立地する地域の魅力が味わえるホテルを展開することで、日本の文化に触れたい訪日客や若い世代の取り込みを目指す。
自由な発想で地域性を演出
アンカードは新ホテルの第1弾で、宮脇さんは開業の1年半前から準備に携わってきた。立地する大阪・ミナミのイメージを重視し、朝食のメニューに屋台を連想させる綿菓子やチョコバナナなどを提案。ホテル内のバーには、通天閣周辺のネオン街を模した装飾を取り入れた。
宮脇さんは「新しいホテルづくりやホテルの運営に挑戦したかった。自由な発想でサービスを打ち出していきたい」と意気込む。開業後、順調に客室は埋まっているといい、ホテル事業を統括する荻田勝紀副社長は「国内外を問わず、若い世代は地域性が感じられるホテルを求めている。宮脇総支配人には現場経験が長いベテランとは違ったワクワクする視点がある」と評価する。
他社でも若手登用が進む
西武・プリンスホテルズワールドワイドは今年度、勤続年数にかかわらず、上司らの推薦で若手を抜擢する人事制度を導入した。30歳代でも総支配人に就くことができるという。
ビジネスホテルチェーンのスーパーホテルは今春、支配人と副支配人をペアで雇う独自の制度で、初めて新卒の学生を採用した。友人と応募した松井真大さん(22)で、6月に支配人として「スーパーホテル奈良・新大宮駅前」(奈良市)に着任した。
この制度はホテル1棟を運営し、収益に応じた報酬を得るもので、将来的に独立する人も多い。松井さんは理学療法士の資格を生かして、福祉分野での起業を目指しており、「福祉現場のことは実習で学んだが、経営は未経験。働きながら経営を学ぶには、スーパーホテルの支配人が一番だと考えた」と話す。採用を担当した同社の中本譲・総務部次長は「起業への夢や熱意を評価した。地域を巻き込みながら、独自の色を出していってもらえたら」と期待する。
人手不足と変化する旅行スタイル
背景には人手不足もあるようだ。ホテル業界に詳しい不動産サービス会社CBREの奥山貴雄氏は「ホテルの新規開業が相次ぐ一方、人材育成が追いつかず、支配人候補が不足している」と指摘する。その上で「旅行のスタイルが団体から個人中心になり、魅力的な食や体験、文化に触れられるかがホテル選びを左右するようになっている。ホテルの現場を知るだけでなく、SNSの活用法を含め、新しい客を呼び込める『クリエイター型』の支配人が求められている」と話している。



