東京・世田谷区の豪徳寺は、江戸時代の彦根藩主・井伊家の菩提寺として知られ、幕末の大老・井伊直弼の墓もある。その境内に、無数の招き猫の置物が並び、訪れる人々の目を引いている。
招き猫の奉納、1万個以上が境内に
先月28日、雨にもかかわらず、豪徳寺の寺務所には参拝客の行列ができた。お目当ては招き猫の置物だ。約2~約35センチの計10サイズが販売されており、寺では招き猫に願いをかけ、成就したら奉納する習わしがある。
境内の一角には、縦横約10メートルずつの道に沿って奉納用の棚が計8台あるが、すでに置くところがないほど招き猫で埋め尽くされ、代わりに塀や地面にも並べられている。住職の粕川徹哉さん(63)は「正確な数はわからないが、少なくとも1万個ぐらいはあるだろう」と話す。
SNSで火が付いた人気
招き猫は、寺の言い伝えによると、江戸前期、タカ狩りを終えた彦根藩2代藩主の井伊直孝(1590~1659年)の一行が寺の前を通りかかった際、門前にいた白い猫に敷地内に手招きされ、急に雷雨となり、一行は難を逃れたという逸話に由来する。
全国の招き猫愛好者でつくる「日本招猫倶楽部」世話役の板東寛司さん(75)は参拝客が増えた背景について、「招き猫が並ぶ様子が写真映えするというSNSの投稿が相次いだことで、人気に火が付いた」とみる。SNSの投稿を見た外国人の間では「ラッキー・キャット・テンプル」と呼ばれ、外国人観光客も押し寄せている。寺によると、17年頃には招き猫が約4000個まで増えたという。
昨年夏には、来日した米国出身の人気歌手ビリー・アイリッシュさんも訪問。招き猫が並んでいる写真を自身のSNSに掲載し、話題となった。現在、参拝客の8割以上は外国人で、招き猫は多い日で一日に1000個以上売れている。
地域を挙げた町おこし
地元では、寺にあやかり、招き猫を活用した町おこしも行われてきた。周辺の店でつくる「豪徳寺商店街振興組合」は09年、寺の言い伝えに登場する猫の名前が「たま」だったことにちなみ、商店街のPRキャラクター「たまにゃん」を作製。さらに、名前を冠した「豪徳寺たまにゃん祭り」も始めた。
翌10年には、小田急線豪徳寺駅前に高さ約1メートルの招き猫像も設置した。同組合の前理事長、上保昌布さん(89)は「住民たちに昔から親しまれていたのが招き猫だ。街のシンボルに据えたことで、地域の一体感が増した」と語る。
上保さんは元々、米店を営んでいたが、寺の人気が出始めた約20年前に猫グッズを扱う土産物店に切り替えた。商店街にはその後、複数の土産物店ができ、街のにぎわいを支えている。上保さんは「今後も、お寺とともに地域を盛り上げていきたい」と話している。