リコージャパンは、AIを活用した営業変革「営業AX」のノウハウを外部展開し始めた。同社は2026年8月4日に記者説明会を開催し、営業プロセス改革の取り組みを明らかにした。
「モノ売り」から「課題解決型」への転換
同社の鮫田徳昭氏(代表取締役 社長執行役員 CEO)は、従来の営業スタイルを「複合機を中心とした『モノ売り』だった」と振り返る。しかし、ITやDXによる経営や業務の課題解決を求める顧客からの相談が急増し、「課題解決型」への営業プロセス改革を進めているという。
改革は2023年度から始まった。社内ナレッジの集約・共有を図るナレッジポータルの更新と、SFA(営業支援システム)およびCRM(顧客情報システム)の更新を同時に実施した。
AI商談記録の導入とデータ品質の改善
当初、最新の生成AIに営業の活動報告データを学習させ、顧客が抱える課題を抽出させたところ、1000万件の活動報告データから9%の課題しか抽出できなかった。原因は活動報告データの品質にあった。鮫田氏は「忙しい営業は活動報告をする際、記録が必要と思う点だけをSFAに入力していた。それだとAIが十分に力を発揮できないことが分かった」と説明する。
そこで同社は2026年4月にナレッジワークの「AI商談記録」を導入し、約6000人の営業担当者が活用することで「データ品質の問題を解消し、営業プロセスを個別に変えることができた」という。この経験から「データはうまく使おうとするより、まずは貯めることが大事」と強調した。
ナレッジワークは「セールスAIエージェント」ソリューションを展開するベンチャー企業で、今回の会見でリコージャパンとの資本業務提携も発表した。
具体的な成果
AI商談記録の導入効果について、鮫田氏は「手入力をなくし、生の対話をそのままデータに変えることにより、AIが真価を発揮するためのデータ品質の変換に成功した」と述べた。具体的には、1商談あたりの情報量(文字数)が導入前の平均73文字から導入後は同1340文字に、約18倍に増加。また、顧客の課題抽出率(AI分析精度)は導入前の9%から導入後は71%と約8倍に向上した。補足すると、AI商談記録で得られるデータはコンテキスト(文脈)データであり、AIにとっては「大好物」である。
こうした取り組みから、営業プロセス改革における最重要ポイントとなる「課題判別量」は、2025年2月のSFA更新時から2026年6月時点で約4.5倍に増加した。「毎月4万5000件のお客様の課題を判別できるようになってきた。その解消を支援することが当社の使命であり役割だ」と鮫田氏は力を込めた。
今後の展開
鮫田氏は「とはいえ、改革はまだまだ道半ば。AIによって営業の能力をさらに拡張するとともに、社内での実践で培ったノウハウを生かし、規模に関係なく幅広いお客様へサービスを提供していきたい」と述べた。
社内での取り組みについては「営業の能力を拡張する、次の世界へ」をテーマに、AIが「過去の事実データ」をもとに営業の「次の一手」を支える形にしていくという。
ビジネスについては、次の3つの展開プランを設けた。左から、商談記録の品質アップ・効率化に向けた「アプリ単体提供」を入り口に、顧客の基幹システムに対応した最適な提案としての「kintone連携提案」へ展開し、将来の営業AXへつなげる「コンサル+SFA連携提案」に拡張するという内容だ。
なお、AI商談記録については5月に販売を開始しており、案件数も順調に伸びているとのこと。顧客からは「商談記録や議事録作成に時間がかかっている」「営業活動が属人化している」「営業ノウハウが組織に蓄積されない」「商談データを十分に活用できていない」「営業の生産性向上が求められている」といった課題が上がっており、その内容は同社が社内実践で解決に取り組んできたことと共通しているという。
人材削減への見解
記者は会見の質疑応答で、同氏の話になかった点を聞いてみた。その質問とは「経営視点でいえば、営業AXによって営業人材を減らせるのではないかとの見方もある。これについて、どうお考えか」というものだ。これに対し、鮫田氏および会見に登壇したナレッジワークの麻野耕司氏(代表取締役社長 CEO)が次のように答えた。
「当社でいえば、減らすつもりはない。モノ売りから課題解決型の営業になるためには、1つ1つの商談に丁寧に対応しなければいけない。そうしたビジネスのためにAIを活用する。そして、中身の濃い商談にするのが非常に重要だ」(鮫田氏)
「当社のソリューションの最大の特長は、営業の生産性を高めることだ。その上で、現状の営業人材数を維持する、もしくは増やしてさらなる成長を目指す。お客様にはそう提案している」(麻野氏)
まとめ
最後に、今回の会見を受けて、記者の頭に浮かんだことを2つ述べておきたい。
一つは、営業担当者の意識改革だ。AI商談記録によって顧客とのやり取りがすべて残るとなれば、営業担当者も「どう話すか」「どう聞くか」と、一段と緊張感を持って臨むようになる。それが営業全体の意識改革につながるのではないか。記者はむしろ、この点が最大の効果ではないかと考える。
もう一つは、AIを生かすデータの整備の重要性だ。今回のリコージャパンの取り組みは、AIを生かすデータの整備がいかに重要かを物語っている。だが、それはDXの段階から指摘されていたことだ。したがって、DXにどう取り組んできたかで、AXにすぐに取り組めるかどうかの差が出る。どれだけの企業がそう見通してきたかといえば、数少ないのではないか。とはいえ、AXは始まったばかりだ。まだ今からでも遅くはない。まずはAIを生かすデータの整備に全力を上げていただきたい。
営業AXは間違いなく企業の競争力に直結する。どんな取り組みがあり得るのか。引き続き、取材を重ねたい。



