阪急阪神HD統合20年、文化尊重で営業利益1.5倍に飛躍
阪急阪神HD統合20年、文化尊重で営業利益1.5倍

阪急阪神ホールディングス(HD)が発足から10月で20年を迎える。旧村上ファンドによる阪神電気鉄道株の買い占め騒動が発端となり、統合当初は宿敵同士の組み合わせに疑問の声もあったが、統合効果は数字が証明している。令和7年度の営業利益は1271億円に上り、統合した平成18年度の870億円の約1.5倍となった。

鉄道事業は独自路線を維持

阪急阪神HDの嶋田泰夫社長は「マーケットが縮む中で『阪急だ』『阪神だ』なんて意識して仕事はしていない」と繰り返す。同HDは平成30年度から総合職を一括採用しており、累計425人と総合職全体の3割に上った。阪急、阪神のどちらに配属されても給与や昇進など人事面の処遇に差はなく、「HDの総合職は阪急出身、阪神出身など、ほとんど気にしていない」(広報)という。

傘下の百貨店や旅行、ホテル、不動産など重複事業は次々統合したが、同HDは「統合すべきものと守るべきものは分けている」と説明する。守るべきものとされたのは鉄道事業だ。阪急、阪神それぞれ1世紀にわたって積み上げた安全思想や文化、現場の用語や動作などが異なることから互いに尊重。無理に統合して一時的にでも混乱すればリスクになるため、独自のやり方を守っている。一方、新技術の導入など協力は続けているという。

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統合の経緯と聖域を守った理由

統合のきっかけは、旧村上ファンドが阪神株を買い進めたことだ。17年9月末に阪神株の大量保有が明らかになり、阪神株は過半数に迫る約46%まで買い進められた。その後、阪急との統合構想が急浮上し、約2500億円を投じた阪急のTOB(株式公開買い付け)が成立した。

「存亡の危機」を救済された阪神側には買収者にのみ込まれるとの危機感があり、阪急側にも「2500億円も費やしたのだから阪神に遠慮する必要はない」とする声があった。このため「阪神電車に(阪急カラーの)小豆色の阪急の車両が走る」「いずれ阪急タイガースになる」との臆測が広がった。

しかし、昨年死去した阪急HDの角和夫社長(当時)は「対等の精神」での経営統合を掲げた。阪神タイガースについて、角氏は「阪急ブレーブスの経営権がオリックスに移って以降、私は野球への興味を失った。興味も知識もない男が意思決定に関わるべきではない」と語り、阪神ファンの反感を買うのを避け、阪神電車に阪急色を持ち込むこともなかった。

統合から約10年後、角氏は「阪神が経営に失敗し、それをわれわれが救済したのではないからだ」と強調。阪神の危機はビジネスモデルの破綻ではなく、買収防衛の失敗だったとし、「最大の顧客である沿線住民やタイガースファンの反感を買うなどもってのほか。顧客満足度が高いのが良い会社。顧客満足度を高くするには従業員満足度が大切で、従業員のやる気をなくすようなことをしてはいけない」と述べた。

実利を取った阪急と財務体質の改善

阪急は阪神の聖域に手をつけなかった代わりに実利を取った側面がある。角氏が「阪神は営業利益率は高くなかったが、財務体質がピカピカ。阪急は営業利益率はトップクラスだが、財務が傷んでいた」と指摘したように、阪急はバブルの後遺症で財務体質が弱かった。統合後、阪神側の優良不動産を不動産投資信託(REIT)に組み入れるなどして財務体質を強化した。

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同HDが重視していた指標であるEBITDA(営業利益+減価償却費)で有利子負債を割った倍率は、統合前の17年度の阪急HD単独の9.4倍から、統合後の19年度の阪急阪神HDとして8.8倍、30年度には5.1倍に改善。直近の令和7年度には7.2倍となっている。同HDは「統合に伴う有利子負債が増え、阪神なんば線延伸など大型投資があったため財務健全性の向上を最優先課題としていたが、今は将来の持続的成長のため成長領域への投資を加速する方向に舵を切り、財政健全化と成長投資のバランスを図る段階に入っている」と説明する。

不動産事業の成長と統合効果

統合後、角氏が打ち出したのが阪神百貨店梅田本店のビルを隣接する新阪急ビルと一体的に建て替える計画だ。阪神単独だと老朽化した建物を耐震補強で乗り切る計画だったが、建て替え時の売り場面積の減少を最小限にするのが狙いで、統合したからこそ実現した手法だ。今や先に建て替えた阪急百貨店梅田本店とともに約190メートルのツインタワーが存在感を放つ。オフィス事業も強化し、梅田エリアの賃料の主導権を握る。

同HDの令和7年度の営業利益は1271億円に上り、統合した平成18年度の870億円の約1.5倍に。統合当初、営業利益に占める割合は都市交通4割、不動産4割だったのが、直近は都市交通3割、不動産5割となっている。売上高にあたる営業収益は会計処理を変更した影響から単純比較はできないというが、令和7年度の1兆2035億円は統合当初の1.5倍だ。

タイガース経営に阪急の目

経営統合交渉では、阪神タイガースの球団経営は阪神側が担うことで落ち着いたが、令和4年末、阪急阪神HD社長だった杉山健博氏がタイガースのオーナーに阪急出身者として初めて就いた。統合前後の「阪急タイガースにされる」との臆測がよみがえり、HD会長だった角和夫氏にあらためて理由を聞いたところ、角氏は阪神が球団経営を担うことに変わりはないことを前提に、「一度、阪急の目も入れて球団経営を見てみるということ。ある意味、ショック療法かもしれないが。それに杉山(のオーナーである期間)は長くなくていい」と語った。

後に経営統合以降、優勝を逃し続けてきたことに加え、コロナ禍で選手間にクラスター(感染者集団)が発生したことも危機管理能力に疑問を持つ原因になったと知った。また、別の人物を推した阪神側の監督案を却下した上で、監督に復帰させた岡田彰布氏の後ろ盾にする意味もあったと聞いた。翌5年のシーズンで38年ぶりの日本一に輝き、杉山氏は岡田氏の監督退任後にオーナーを退いている。

阪急阪神HDは経営統合翌年の平成19年からグループ合同新入社員研修を開催している。研修では、グループ全体が1つの会社であるという意識のもとで、沿線人口の減少など事業環境が厳しくなるなか、「長期経営構想」の実現に向けた取り組みを強調している。