『働く人が減っていく国でこれから起きること』(河田皓史著、朝日新書、957円)は、タイトルから人口減少を扱う本と思われがちだが、実際のテーマは「働く人」だ。人口減少に加え、資産形成をして定年前にリタイアする「FIRE」が浸透することも、労働人口の減少につながると予測する。そこから現代人の仕事観、結婚観、人生観が浮かび上がる。
労働環境は改善したのに、働くことが嫌になっている
労働時間や有給休暇の取得率など、労働環境は昔に比べて明らかに改善した。それでも人々は働くことを嫌がっている。今、働く理由を「自己実現」や「社会参加」ではなく、シンプルに「お金のため」と答える人が最も多いという。NISAなどの資産運用が身近になり、30代のFIRE願望は約40%に達する。つまり、お金のために働くのはもう嫌なのだ。
もちろん誰もがFIREできるわけではないが、著者は2050年には300万人から400万人の労働人口がFIREにより追加減少すると試算する。
非婚化と教育費の負担が人口増を妨げる
さらに非婚化も進む。かつての皆婚社会の圧力が生き方の選択肢を狭めていたことを考えれば悪いことばかりではないが、結婚して子どもを育てるという一般的な人口増にはつながりにくい。そして一人当たり3000万円とも言われる教育費。結婚して子どもを持つことは大きな「コスト」なのだ。
単身で生きれば「人生所要金額」は抑えられる。億万長者にならずとも、平均寿命まで生き延びる資金さえ確保すればFIREできる。コスパやタイパを重視してミニマルに生き、慣性で進む。寿命までの消化試合――そんな言葉も浮かぶ。
仕事、結婚、社会、人生を問い直す一冊
本書は単なる近未来予測ではない。改めて現代における仕事、結婚、社会、そして人生とは何かを問う一冊だ。(作家・松永K三蔵)=寄稿=
河田皓史(かわた・ひろし)は1987年生まれ、岩手県出身。米デューク大学大学院修了。日本銀行勤務を経て、現在みずほ総合研究所調査部のチーフグローバルエコノミストを務める。



