「企業研究は、どこまでやればいいですか」。就活生からよく受ける質問の一つだ。「ホームページは全部見た方がいいですか」「IR資料まで読む必要がありますか」「競合他社との違いはどこまで把握すべきですか」といった相談も少なくない。
もちろん、企業について詳しく調べることは大切だ。しかし、この質問を受けるたびに、企業研究で本当に重要なのは「どこまで調べたか」ではないと伝えている。
事実を覚えるだけでは不十分
企業研究の目的は、企業について詳しくなることではない。「自分が働く場所として、その企業を選ぶのか」を判断することだ。
学生の企業研究ノートを見ると、「売上高○○億円」「国内シェア○位」「海外○カ国に展開」「強みは○○」など、驚くほど多くの情報が整理されていることがある。ところが、「それを知って、あなたの志望度は上がりましたか、下がりましたか」と尋ねると、答えに詰まる学生がいる。これでは、企業研究が試験勉強になっている。
企業側も、自社について最も詳しい学生を採用したいわけではない。採用担当者が知りたいのは、企業を調べた結果、「何を魅力に感じたのか」「なぜそう感じたのか」「自分の経験や価値観とどこでつながったのか」だ。
調べた事実の横に必ず自分を置く
例えば、ある企業について「若手社員にも海外勤務の機会がある」と分かったとする。その事実を覚えるだけでは企業研究として不十分だ。海外で働きたい学生なら「自分にとって魅力的だ」と感じるだろう。一方、国内で地域に密着して働きたい学生なら、必ずしも魅力にはならない。同じ企業情報でも、受け止め方は人によって違って当然だ。むしろ、その違いにこそ、その学生の仕事観や価値観が表れる。
そこで勧めているのが、調べた「事実」の横に必ず「自分」を置くことだ。先ほどの例なら、「若手にも海外勤務の機会がある」という事実に対して、「海外で働きたい自分にとって魅力的」と評価する。さらに、「実際には入社何年目くらいで赴任するのか」「どのような社員が選ばれているのか」という次の疑問を持つ。つまり、「事実を知る→自分にとっての意味を考える→分からないことを確認する」という流れだ。
そして、企業研究は応募前に終わるものでもない。ホームページを見たときには魅力的に感じていた企業でも、説明会で社員の話を聞けば印象が変わることがある。インターンシップに参加すれば、仕事内容について新しい発見があるだろう。OB・OG訪問や面接を通じて、職場の雰囲気や社員の考え方が見えてくることもある。
納得して企業を選ぶための作業
そのたびに、「自分はこの会社で働きたいのか」を考え直してほしい。最初に立てた仮説が変わっても構わない。むしろ、企業を知るほど判断が変わるのは、企業研究が深まっている証拠でもある。
就職活動では、どうしても「企業から選ばれること」に意識が向く。そのため企業研究も「面接で何を話せば評価されるか」「志望動機に何を書けば通過するか」という発想になりがちだ。しかし、就職は内定を得た瞬間に終わるものではない。その会社で働く時間は、その後何年、何十年と続く可能性がある。だからこそ、企業から選ばれる準備と同じくらい、自分が企業を選ぶ準備が必要なのだ。
企業研究のゴールは、「御社についてこれだけ知っています」と言えることではない。「調べ、会い、考えた結果、私はこの会社を選ぶ」と自分の言葉で判断できることだ。企業研究をするときは、情報の量を増やすだけで終わらせず、その情報の横に「自分ならどう感じるか」を置いてみてほしい。それを繰り返せば、志望動機にも自分の言葉が生まれ、最後の一社を選ぶときにも迷いにくくなる。
企業研究とは、企業に選ばれるためだけの勉強ではない。自分が納得して企業を選ぶための作業だ。その視点を持つことが、後悔しない就職への第一歩である。(「内定塾」講師 齋藤弘透)



