紳士服店を全国展開する青山商事は7月、全国転勤を事実上、廃止した。転勤を敬遠する従業員や就活生の増加を受け、企業は「同意なき転勤」の廃止や希望する勤務地の登録など転勤制度の見直しを始めている。
転勤登録制度の見直し
青山商事は7月から全国転勤を前提とした働き方を見直した。2018年に3種類の転勤登録制度を作り、社員が選択できるようにした。総合職として全国転勤する「S登録」と、関西や九州などエリア内で転勤する「A登録」、地域限定職として転宅を伴う転勤のない「B登録」だ。
今回はS登録をやめ、A登録とB登録による運用に変えた。A登録の社員が希望すれば、全国転勤を申請することもできる。転勤登録は自己申告でいつでも変更可能にしている。
若手の価値観変化に対応
制度の見直しは「転宅を伴う異動をしたくない」と希望する社員が年々増えていることを踏まえた。B登録は18年時点で社員の3割ほどだったが、現在は約5割に増えた。もう半分の社員もA登録の状況だ。全国各地に店舗があり、採用困難な地域では、動ける人を動かすことで対応してきた。ただ、B登録が半分となり、「全国転勤ありきの仕組みを見直さないといけない」と考えた。
「転勤が当たり前」という昭和的な働き方への価値観は若手には受け入れられない。新卒採用で青山商事を辞退した人に理由をアンケートしたところ「転勤の有無」が大きなウェートを占めた。転勤があるだけで敬遠する学生もいるだろう。地方には、地元で就職したい学生も多い。
給与体系と今後の方針
制度変更後も給与体系は大きく変えていない。これまではB登録を基準に、S登録は15%、A登録は10%基本給に上乗せしてきた。SとAには基準賃料までなら、会社が家賃の半分を負担する社宅制度もある。
今回はA登録の10%は維持し、登録エリア外への異動を希望した場合は15%を加算し、計25%を上乗せ支給する仕組みにした。ただ、会社として「どんどん外に行かせたい」という意味ではない。地域で働いてもらうことを基本に、それでも「チャレンジしたい」という社員の気持ちに一層報いる考えだ。
「S登録がまた減った」「なかなか採用できない」――こんな会話を続けていても、会社として人をアサイン(配置)するのは難しくなるばかりだ。今回、経営層とは「この機会に会社としてのマインドを変えませんか」と話した。今後は地域に密着し、貢献できる人を配置していく。
オンラインやAI(人工知能)の普及で、リアル店舗の体験価値は一層重要になっている。それなら、いかにモチベーション(意欲)高く働いてもらうか。その一つの手段が転勤制度の見直しだった。
会社として「全国どこでも働ける人が正しい」とはしたくない。転勤ができるかどうかでの評価もしない。「転勤ありき」で物事を進めていくのは難しい。地域で採用し、育て、輝いてもらうことを大切にしていきたい。



