日本郵政、不動産事業を強化 総合デベロッパー目指し業界トップ10入りへ
日本郵政、不動産事業を強化 総合デベロッパー目指し業界トップ10入りへ

日本郵政グループが不動産事業を強化している。全国の郵便網の再編・集約に伴い、一等地に建つ局舎などの跡地をオフィスや商業施設、分譲マンションに生まれ変わらせてきた。今後はこうした賃貸・分譲事業の拡大に加え、自社で取得・開発した物件をファンドなどに売却する「回転型事業」も本格的に手がけ、将来は総合デベロッパーとして業界10位内を目指す。

日本橋の旧局舎は超高層ビルに

7月中旬、日本橋郵便局(東京都中央区)の7階建て旧局舎は、下層階部分が目張りされていた。1階の壁面に掲げられた「郵便発祥の地」のプレートや、「日本近代郵便の父」と呼ばれる前島密の胸像も、既に外から見えない。

この地は、前島の建議によって東京―大阪間で郵便業務が始まった1871年(明治4年)、事業を統括する「駅逓司」が置かれた。現在の郵便局舎は1973年に竣工し、毎年正月には年賀状の配達出発式が大々的にテレビで報じられる郵便事業の「顔」ともいえる存在だった。昨年10月に営業を終了して移転を済ませ、今年6月から解体工事が始まっている。

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旧局舎は、都心を南北に貫く昭和通りに面する「超一等地」(関係者)に建つ。土地面積はバスケットボールコート7面分に当たる約2900平方メートルで、都心部では業界羨望の「出物」と受け止められている。

全国16か所で開発を推進

旧局舎や周辺を含む一帯は、「日本橋一丁目東地区第一種市街地再開発事業」として再開発が進む。総事業費は約5088億円で、地上40階・高さ203メートルの超高層オフィスビル(A街区)と、地上50階超・高さ210メートルのタワーマンション(B街区)を建設する。日本郵政はA街区で参画し、2034年度の竣工後はオフィス部分を取得して賃貸事業を手がける。

日本郵政は現在、不動産開発を全国16か所で段階的に進めている。開発面積は計約11万平方メートル、総事業費は約1100億円に上る。これら以外の候補としては、旧日本橋局のほか、銀座、横浜中央、京都中央、福岡中央など都心部の大規模郵便局を検討している。名古屋、横浜、京都の社宅や寮などの跡地計6か所は、住宅に適した立地や面積を生かし、分譲マンションを順次開発している。

賃貸マンション事業も「JP noie」のブランド名で展開しており、東京都や大阪府内を中心に北海道や九州を含め全国約30か所に物件を持つ。福岡市中央区に今年1月完成した「JP noie天神南」(総戸数41戸)は15階建て、41~56平方メートルの高級物件だ。

保有土地の簿価は約1.4兆円

日本郵政の強みは、県庁所在地などで主要駅に直結・近接した一等地の広い土地を、自前で保有している点にある。鉄道が長距離の郵便配送を主に担っていた時代の名残だが、「物件の立地競争力の面で優位性が高い。不動産開発で最も手間がかかる用地取得が必要なく、開発期間を短縮できる」(不動産業界関係者)との見方がある。

全国に保有する土地の合計簿価(26年3月末時点)は、約1兆4000億円。うち郵便局などの事業用不動産が60%、賃貸事業で稼働中が30%、残る10%は開発候補・開発中だ。事業用不動産のうち事業化が有望とみられるのは200件超、土地面積では約40万平方メートルに上る。実際、開発の具体的な検討に入ったのは19万平方メートルで、面積ベースで残り半分は今後の新たな開発の余地がある。

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経営計画で投資拡大、目標は業界トップ10

不動産事業への本格参入は12年5月、東京駅前にある東京中央郵便局の跡地に竣工した「JPタワー(KITTE丸の内)」が第一号案件だった。18年にグループの不動産事業を担う100%出資子会社、日本郵政不動産(東京都)を設立。今年5月、中期経営計画「JPプラン2028」を策定し、不動産事業を「新たな収益の柱として確立する」と打ち出した。

不動産事業がグループ連結の経常利益に占める割合は2%程度に過ぎないが、中核の郵便・物流事業が赤字体質から脱却できない中、安定成長を期待しやすい。日本郵政の根岸一行社長は5月の記者会見で「郵便、郵便局窓口事業のユニバーサルサービスの持続性に非常に危機感を持っている。事業構造改革に取り組むとともに、不動産、物流といった成長領域に資本を投下し、利益の拡大を実現したい」と説明した。

中期経営計画によると、26~28年度に日本郵政グループは不動産事業に約2600億円を投じる。内訳は、「賃貸事業」が1800億円、「回転型事業」が500億円、「分譲事業」が300億円となっている。グループ全体では、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社を除いた各セグメントに計9000億円の投資を見込む。郵便・物流事業に3900億円、郵便局窓口事業に1150億円、国際物流事業に1000億円となり、不動産事業の2600億円は全体の28.8%を占め、郵便・物流事業に次ぐ規模となる。

同計画では、期間中に不動産事業の事業利益を280億円、将来は500億円超に拡大し、「総合デベロッパーのトップ10入り」を目標に掲げた。40年度前後が目安の模様で、現在業界10位の日鉄興和不動産(本社・東京都)を意識しているとみられる。日鉄興和は26年3月期、売上高にあたる営業収益は2822億円、営業利益は497億円だった。目標達成には、営業利益を26年3月期の239億円からほぼ倍増する必要があり、「チャレンジングな道のりになる」(業界関係者)との見方も出る。

日本郵政は「開発候補の不動産の事業化による収益増、稼働中物件の内部成長の加速、経営環境を見極めた着実な投資により、十分に達成可能だ」としている。

グループ外の土地取得も視野に

不動産業界は三井不動産、三菱地所、住友不動産を中心に旧財閥系の大手が上位を占め、大きな順位変動は起きにくかった。ただ、建設コストの高騰や金利上昇により事業環境が変化しつつあり、日本郵政も対応を迫られている。これまでは局舎や物流施設など、大規模な跡地の再開発と賃貸事業が中心だったが、今後はグループ外の土地も積極的に取得し、自前の開発を進める方針だ。

読売新聞の取材に対し、「分譲マンション事業の強化や、回転型事業の展開で事業領域の拡大を図り、市況変化に柔軟な対応ができる事業ポートフォリオを構築していく」としている。回転型事業は、外部から物件を仕入れ、改修工事や賃料引き上げを通じて価値を高めて売却し、その資金で次の物件に投資する事業手法で業界7位に急成長したヒューリック(東京都)が得意としてきた。

課題は、同業ライバルに見劣りする利益率の向上だ。26年3月期の不動産事業の総資産利益率(ROA)は2.5%で、日本郵政は「保有不動産の築年数が比較的浅く、減価償却負担が重いため」と説明する。今後はオフィス賃料値上げによる収益改善が期待できるため、同業他社と遜色ない水準のROA4%超への早期引き上げを目指している。

日本郵政は17年、業界大手の野村不動産ホールディングス(東京都)の買収に動いたことがある。郵便局や物流拠点など全国の不動産資産の事業化で野村不と手を携えれば、「大きなシナジーが生まれる」(関係者)との見方があった。ノウハウや実績・経験が少ないため、他の大手デベロッパーとの共同事業にすることが多かったという懸案の解消も期待された。この時は買収価格などの条件が折り合わずに断念し、当面、自前で事業拡大を図る道を選んだ。再開発可能な一等地を多く保有する日本郵政はデベロッパーとして大きな潜在力を持つだけに、不動産大手との合従連衡も引き続き注目点といえる。