中央線の車窓から、山肌を貫く巨大なチューブ状の建造物が見える。その正体は、積水ハウスがバブル期に開発した高台住宅地「コモアしおつ」(山梨県笛吹市)へのアクセス施設「コモア・ブリッジ」だ。全長209.8mのガラスドームの中にエスカレーターと2基の斜行エレベーターを備え、建設費は約40億円。まるで「天空のマチュピチュ」のような景観は、当時から大きな話題を集めた。
丘陵地の眺望を生かした住宅地開発
積水ハウスが重視したのは、単に住宅を並べるのではなく、丘陵地の眺望や緑を生かし、ほかにない住宅地をつくることだった。そうしたまちなみづくりに大きな影響を与えたのが、景観設計の先駆者である建築家の宮脇檀さん(1936-1998)だ。宮脇さんの考え方のもと、当初の碁盤の目状の宅地割りの計画は大きく変わり、地形や景観、歩行者の動線に配慮した設計が進められていった。
駅と住宅地を結ぶコモア・ブリッジ
想定人口約6000人の高台の住宅地では、通勤・通学や買い物などの生活動線を確保することが重要な課題だった。国道20号側から高台を結ぶ道路もあるが、車以外で駅とまちを直接結ぶ動線も必要だ。そこで計画されたのがコモア・ブリッジだ。透明なガラスドームの中に、エスカレーターと2基の斜行エレベーターを備えている。斜行エレベーターは定員15人で、約4分で住宅地側まで移動できる。かごの内部にはテレビや運行位置の表示もあり、乗車中の快適性にも配慮されている。
まち開き当初の反響
まち開きでは、住宅地とともに大きな注目を集め、テレビや新聞、専門メディアも取材に訪れた。「ゴルファーやハイカーも物珍しさに訪れていた」と松田さん。自治体やまちづくり団体の視察もあったという。積水ハウスは、愛媛県松山市の「グリーンヒルズ湯の山」(86年)で斜行エレベーターを備えた住宅地開発を手がけていたが、東日本の住宅地開発で導入するのは初めての試みで、関東近郊の各支店からも見学者が訪れていた。
住宅地の生活インフラ
山の上には食料品や日用品を買えるスーパーも整備され、日常生活に必要な施設がそろっている。まちなみの詳しい仕掛けについては後編で触れるとして、まずは山の上の住宅地を成立させた交通システムと生活インフラを見てきた。コモア・ブリッジは、今も住民の足として、また観光スポットとして親しまれている。



