世界的なEV(電気自動車)シフトの加速により、自動車部品業界で深刻な供給網の混乱と雇用問題が浮上している。従来のエンジン車向け部品を主力とする中小メーカーは、需要急減と技術転換のプレッシャーに直面し、多くの企業が生き残りをかけた決断を迫られている。
部品メーカーにのしかかる構造転換の波
トヨタ自動車のグループ会社であるデンソーは、2035年までにエンジン関連部品の生産を段階的に縮小する方針を打ち出した。同社は既にEV向け製品へのシフトを進めており、2025年度までに研究開発費の約7割を電動化関連に振り向ける計画だ。しかし、こうした大手の動きに中小部品メーカーは対応が追いつかず、受注減少に苦しんでいる。
日本自動車部品工業会の調査によれば、会員企業の約6割がEVシフトによる事業への悪影響を懸念している。特に、エンジンのピストンやバルブ、燃料噴射装置などを専門に手がける企業は、技術の転換が困難で、廃業や業界離れを検討せざるを得ない状況だ。
雇用不安と地域経済への打撃
部品メーカーの経営悪化は雇用にも直結する。愛知県を中心とする自動車産業集積地では、関連企業の従業員数は約50万人に上る。ある大手部品メーカーの人事担当者は「今後3年間で、エンジン関連部門の人員を2割削減する計画がある。削減対象は主に50代以上のベテラン社員だ」と打ち明ける。
実際、2023年には既に複数の部品メーカーが希望退職を実施した。例えば、エンジン部品大手のA社は、2023年11月に300人の希望退職を募り、うち約250人が応募した。同社の広報担当者は「EVシフトの影響は想定以上に大きく、早期退職制度の拡大を検討している」と話す。
業界再編と新たなビジネスモデルの模索
こうした状況下で、業界再編の動きも加速している。2023年には、部品メーカーのM&A件数が前年比で約2割増加した。特に、異業種からの参入や、EV向け部品に特化したスタートアップの買収が目立つ。
一方で、既存の技術を活かした新事業への転換を模索する企業もある。例えば、エンジン用バルブメーカーのB社は、同技術を応用した水素ステーション向けバルブの開発に着手した。同社の社長は「水素社会の実現はまだ先だが、今から技術を磨いておけば、将来の生き残りにつながる」と語る。
政府の支援策と課題
経済産業省は、中小部品メーカーのEV対応を支援するため、2024年度から新たな補助金制度を導入する方針だ。補助金の総額は約500億円で、技術開発や設備投資の一部を助成する。しかし、業界団体からは「申請手続きが煩雑で、人手のない中小企業には使いにくい」との声が上がっている。
また、雇用対策として、職業訓練の拡充や転職支援も進められているが、専門性の高い技能を持つ労働者の再就職は容易ではない。ある自動車部品メーカーの元従業員は「30年間エンジンの組み立て一筋だったが、今の技術ではEV工場でも通用しない。新しいスキルを学び直すのは難しい」とこぼす。
EVシフトの行方と部品業界の将来
世界的なEVシフトの流れは不可逆的であり、部品業界の構造変革は避けられない。国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、2030年までに新車販売に占めるEVの割合は世界全体で約35%に達する見通しだ。日本でも、政府が2035年までに新車販売を全て電動車にする目標を掲げており、部品メーカーへの影響は長期的に続く。
しかし、全ての部品メーカーがEV対応に成功するとは限らない。日本自動車工業会の担当者は「技術力のある企業は生き残るが、そうでない企業は淘汰される。業界全体として、一部の企業に過度に依存しないサプライチェーンの構築が急務だ」と指摘する。
部品業界の混乱は、日本の自動車産業の競争力にも直結する問題であり、今後の動向が注目される。



