生命の起源に迫る化学的な反応を発見した東京理科大名誉教授の硤合(そあい)憲三さん(76)が7日、ノーベル化学賞に輝いた。「私の人生で最も心躍る日」――。そう喜びを表現した硤合さんの快挙に、旧友や同大の学生らから祝福の声が上がった。
受賞決定から約15分後に電話インタビュー
「うれしい知らせをとても興奮しながら受け止めています」。受賞決定の発表から約15分後の午後7時頃。スウェーデン王立科学アカデミーなどから電話インタビューを受け、あふれ出す喜びの言葉を英語で次々と紡いだ。
受賞が決まった心境を「人生で最も心躍る日」と語った。続いて研究仲間との長年の研究の成果や意義に言及し、「興味深いことを数多く発見してきた」と自負ものぞかせた。同じ分野に取り組む後輩に向け、「(我々の成果が)最終的な答えではありません。生命を理解するために、研究をもっともっと進めていかなければなりません」と呼びかけた。
午後8時20分頃には、自宅のある埼玉県志木市のマンションから姿を見せた。つえをつき、帽子にスーツを身にまとい、集まった報道陣に「研究の価値を知っていただけてうれしい」と喜びを語った。共同受賞するアンリ・カガン氏に触れ、「フランスの非常に有名な先生と一緒に受賞でき、大変喜ばしいことだと思っています」と話した。
東京理科大の学生らも喜び
硤合さんが名誉教授を務める東京理科大の神楽坂キャンパス(東京都新宿区)では、学生たちも喜びに包まれた。
博士課程で有機化学を学ぶ瀬川卓杜さん(29)は、研究室で仲間とともに受賞決定の報に接した。インターネット中継で硤合さんの名前が呼ばれた瞬間、「思わず声が出てしまった。みんなで大喜びした」と振り返る。学会で硤合さんと話したこともあり、「いつも穏やかで、硤合さんが話し出すとその場が和む」とその人柄を語る。
今夏の研究発表会では、学生に「考えるより、まず手を動かして」とエールを送ってくれたという。瀬川さんは「偉大な研究をされた方で、受賞は時間の問題だと思っていた」と話した。
理学部1年の高橋帆乃香さん(19)も、学内で友人と「誇らしいね」と喜んだ。数学を学び、研究者を目指しているという高橋さんは「理科大の研究力が認められてうれしい。いっそう課題や勉強を頑張っていきたい」と話した。理学部4年の渡辺孔大さん(22)も「成果が出なくてつらい時もあったが、目標となる人ができた」と誇らしげに語った。
同級生や恩師の思い出
広島大付属高校の同級生で小樽商科大名誉教授の江口修さん(76)(札幌市)は、「同窓会でもいつも硤合さんの活躍が話題になっていた。皆で受賞を長く期待しており、受賞は遅いんじゃないかと言うくらいだ。同級生の誇りで本当にうれしい」と喜ぶ。
高校1年時に同じクラスだったという江口さんによると、当時から大学レベルの数学を勉強していたといい、数学の教師からは「将来こいつは偉いやつになる。頭の良さが違う」などと言われていた。
バスケットボール部に所属し、練習にも汗を流していたといい、周囲からは「バスケも数学的にやっているんじゃないか」と一目置かれていたという。
受験期には、安田講堂事件で東京大入試が中止に。それでも「僕は東大に行く」と周囲に明かし、浪人生活を送って東大に進学したという。
硤合さんから35年ほど前、東京理科大学で有機化学の授業を受けた、日本化学会の中村史夫事務局長(58)は「日本の化学のレベルの高さが示された」と受賞を喜んだ。
中村さんは同大2年の頃、硤合さんの有機化学の授業を週に一度受けていた。一方的に話す怖い教授が多い中、「優しく丁寧に教えてくれた」といい、化学の道に進むきっかけになったという。
ノーベル賞受賞者からも祝福
1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈さん(101)は「まずはおめでとうと言いたい。自分は専門外だが、今回の研究はよく知っているケミストリーとは違うものを探求していて、化学の新しい分野を開拓したという意味で大きな価値があると思う」と喜んだ。化学賞ではこれまで多くの日本人が受賞してきたとし、「日本が化学で世界トップクラスを走っていることのなによりの証明だと思う。サイエンスは将来性のある分野を開拓してこそなので、今後の研究のさらなる発展に期待したい」と研究者らにエールを送った。
2019年にノーベル化学賞を受賞した旭化成名誉フェローの吉野彰さん(78)は「創薬に役立つだけでなく、生命の根源を考える上でも重要な成果だ。化学賞は昨年の北川進さんに続いて2年連続で、日本にとっては大変喜ばしい状況だが、いずれも数十年前の業績が評価された形だ。今回の受賞決定を機に、若い世代が化学研究に興味を持ち、将来のノーベル賞候補となるような活躍につながっていくことを期待したい」と話した。
硤合さんは、優れた研究業績を顕彰する2025年度日本学士院賞に選ばれた。昨年6月10日に東京・上野で開かれた授賞式に出席し、天皇陛下の前で同院長の佐々木毅氏から賞を受けた。この日、硤合さんら受賞者は皇居・宮殿に茶会に招かれ、天皇、皇后両陛下や長女愛子さまらから功績をたたえられた。