多チャンネル型人工内耳の開発者2氏に本田賞、普及への尽力評価
多チャンネル型人工内耳の開発者2氏に本田賞

本田財団(石田寛人理事長)は2026年の本田賞を、複雑な音の情報を脳に届ける「多チャンネル型人工内耳」を開発したオーストラリア・メルボルン大学名誉教授のグレアム・クラーク氏(91)と、オーストリア・メドエル社共同創業者兼最高経営責任者(CEO)のインゲボルグ・ホフマイヤー氏(73)の2氏に授与すると発表した。言葉を聞き取れる性能を実現し、普及にも尽力した点が評価された。

人工内耳の仕組みと開発の歴史

音は空気の振動として耳に入り、鼓膜を震わせ、中耳の耳小骨を経て内耳の蝸牛に伝わる。蝸牛内の有毛細胞が振動を電気信号に変換して聴神経に送る。これが脳に届いて音を認識できる。有毛細胞に問題があると、補聴器の使用や一般的な内耳手術では改善が難しい難聴となる。

人工内耳は、補聴器でも言葉を十分聞き取れない重度難聴者のための医療機器。音を電気信号に変換し、蝸牛内に挿入した電極から聴神経を直接刺激することで音を脳に伝える。1950年代末に米国のウィリアム・ハウス氏が単一の電極を使う「単チャンネル型」を開発。ただ音の強弱やリズムの把握にとどまり、言葉として聞き分けにくく利用が限られた。

2氏の貢献と製品化への道のり

1970年代にホフマイヤー氏は電気工学、クラーク氏は医学と神経生理学の立場から、それぞれ独自に改良の研究を進めた。音を複数の周波数帯に分け、それらの情報を異なる電極から蝸牛のさまざまな位置に伝達して聴神経に届ける仕組みにより、多チャンネル型を開発。音を言葉として聞き取れるようになり、1977~78年に患者への埋め込みに成功した。

両氏はこの成果を患者に生かそうと奮闘。クラーク氏はオーストラリア政府の支援も得て、コクレア社と連携し開発を進めた。ホフマイヤー氏も夫とメドエル社を設立。1980年代に製品化が進み、基本設計は現在も多くの製品に受け継がれている。

世界的な普及と今後の期待

人工内耳の累計の利用者は世界で100万人以上、日本国内で2万人以上。高齢者の生活の質や認知機能の維持、重度難聴の子供の音声言語獲得にもつながっていると指摘される。「最も成功した人工臓器」とも評価され、生体医工学やヒューマン・マシン・インターフェースの優れたモデルケースとして、さらなる進化が期待されている。

本田財団は9月15日に授賞者を発表した。贈呈式は11月16日に東京都内で開かれ、計1000万円が贈られる。