ノーベル文学賞が10月8日に発表される。スウェーデン・アカデミーが選ぶこの賞は、この8年間、男女が交互に受賞している。この傾向からすれば、今年の受賞者は女性になるはずだが、その順番が守られるかどうかが注目される。また、長年の課題であるヨーロッパ偏重の傾向が解消されるかも焦点だ。
2018年から続く「男女交互受賞」
この20年間の受賞者を見ると、2000年代以降、女性の受賞者が目立ってきていたが、2018年のオルガ・トカルチュク以降は、きれいに男女交互の受賞が続いている。現代の女性作家の活躍を反映しているとは言えるが、何か理由があるのではないかと探りたくなるのも自然だろう。
思い当たるのは、2018年にスウェーデン・アカデミーが同年の賞の公表を見送った騒動だ。当時、会員の妻を持つ写真家にセクハラ疑惑が浮上し、内部対立が激化。会員が相次いで辞任するなど混乱が続いた。「信頼回復に向けたいくつかの重要な変革が実行された」として、2019年に2年分の受賞者を発表した。その後、男女の隔年受賞が定着している。
地域性への期待と文学賞の幅
男女交互受賞と信頼回復が関係あるようには見えないが、事実としてこの傾向がある以上、今年は女性が受賞する可能性が高いかもしれない。ノーベル文学賞は受賞者の地域性にも気を配っているといわれるが、アジア人の目から見ると欧米偏重と言わざるをえない。2006年からの10年間で欧米出身者以外の受賞者は3人、2016年からの10年間ではカズオ・イシグロを入れても3人にすぎない。
それでも地域に気を配っているとすれば、オセアニア、南アジア、南米などの受賞がそろそろあってもいいのかもしれない。また、サラ・ダニウスが女性初の事務局長に就任した2015~18年は、ジャーナリストのスベトラーナ・アレクシエービッチや歌手のボブ・ディランなど、文学賞の幅を広げようとする華やかな受賞が続いた。彼女の退任後は、旧来の文学の枠にあるような受賞作が続いているように見える。文学の開拓者としての存在感を示せるかも注目される。
受賞を逃した作家たちと限界
2014年には『ノーベル文学賞にもっとも近い作家たち』(青月社)という本が出版され、村上春樹さんをはじめ38人の作家が挙げられていた。だが、10年余りたった今、多くの作家が受賞せずに亡くなっている。『薔薇の名前』のウンベルト・エーコや米国のフィリップ・ロス。最も惜しまれる一人は、『存在の耐えられない軽さ』で知られたミラン・クンデラだろう。チェコからフランスに亡命し、国や言語を超えて活躍した20世紀の「越境文学」を象徴する存在だった。
毎年一人にしか与えられない賞で、世界のすべての優れた作家を顕彰するのは限界がある。さらに、今年評判が高いメキシコのクリスティーナ・リベラ・ガルサは邦訳がない。ノーベル文学賞について様々な指摘をしたところで、日本から見える世界文学の風景は限られたものであることも理解したい。
それでも気になるのがノーベル文学賞だ。世界の多様な文学の風景を映し出すような受賞者が生まれることを期待したい。