早稲田大は、次世代の研究主宰者(PI)を重点的に支援する「PI飛躍プログラム」を展開している。研究者として独り立ちする「波」に乗るため、経験豊富なチームがサポートする枠組みだ。
支援対象は博士号取得後15年以内の研究者
支援対象は、PIと呼ばれる独立した研究室を主宰する研究者で、原則として博士号取得後15年以内を条件としている。2022年度の導入以来、計15人のPIを支援対象者として選んだ。
早大の天野嘉春・研究推進部長(58)によると、博士学生や若手研究者をサポートしたり、大型研究費を獲得するような中核研究者をバックアップしたりする枠組みはこれまでもあった。だが、今後飛躍が望まれる研究者を対象に伴走支援する新たな枠組みが必要だとして、プログラムが導入されたという。
早大では以前から、国立大の講座制とは違って、1教員1研究室という体制を続けてきた。若手研究者が独自の発想で研究を進められるメリットがある一方、経験が豊富な先人から研究体制を構築するうえでのアドバイスを受けづらいという課題もあった。
人文社会は年200万円、自然科学は年400万円
プログラムは、学内教員で構成されるアドバイザーチームや研究推進支援を担う教員(URA)が、研究ネットワークの拡大や、国際共同研究の企画・提案、大型の外部研究資金獲得への提案などについてサポートする。
支援対象者は2022年度から年間2~4人ずつ選出しており、期間は3年間。人文社会系では年200万円、自然科学系では年400万円が支援される。
支援費は比較的自由に使うことができ、研究スペースの確保のほか、国際学会やワークショップの開催を誘致する際の諸費用などとして活用されている。研究者自身のホームページの作成費用にあてることもできるという。
天野部長は「研究者として若手から中堅の時代は、国際的なコミュニティーに入って認められていくことがネットワークを広げていくためには重要。その端緒となるようなプログラムになっている」と話す。
支援対象の三宅教授「自由度高い支援費得られた」
PI飛躍プログラムの2022年度の支援対象者に選ばれたのは、早大大学院情報生産システム研究科の三宅丈雄教授(44)(バイオデバイス)だ。
三宅教授は、生体とデバイスをつなげ、生体からの信号を測るだけでなく、逆にデバイスから生体に信号や物質を送り込むような手法の開発を進めている。我々の体の中では電子やイオンが信号を送るのに重要な役割を持っており、三宅教授は電子(エレクトロン)とイオンを生体との間でやり取りする「バイオイオントロニクス」という学問を提唱し、実践してきた。
最近では、ひずみセンサーを搭載し、無線通信できるソフトコンタクトレンズを開発。これまで難しかった24時間の眼圧測定が可能になり、現在、企業とともに、緑内障患者を早期に発見する診断機器の開発を進めている。
一方、細胞にたくさんの超微細な針を刺して、細胞内液やミトコンドリアを吸い取った後、別の細胞に注入する「ナノチューブ膜スタンプ」を開発した。三宅教授は「ミトコンドリアを注入することで、細胞の活性を上げることができ、将来、再生医療などで活用できる可能性がある」と力を込める。
こうした成果を上げている三宅教授だが、PI飛躍プログラムの支援が決まる前は、細胞培養の実験を行うスペースがなかった。国の研究費では装置を購入することはできても、研究スペースの賃貸費に使うことに制約があることが多く、躊躇していたという。
プログラムの支援費を施設の賃貸に使ったほか、研究員の雇用や、コンタクトレンズの実験に使うソフトウェアの購入に充当したという。「自由度の高い支援費が得られたので、学生の学会出張費として使ったりもした」と三宅教授。さらに、URAの助言を受け、新たな大型研究費を獲得し、計11件の国際論文発表に結びついた。
早大側も三宅教授の研究内容をホームページでアピールしており、海外での知名度も高まっているという。三宅教授は、「大学側が様々な面で支援してくれた。研究成果の実用化に向け、研究を加速したい」と話した。



