沖縄科学技術大学院大などの研究チームが、本来は冬眠しない動物を人工的に冬眠させる技術を使って、記憶維持の根幹を担う脳の構造を特定することに成功した。宇宙旅行や医療への応用が期待される人工冬眠技術が、脳科学の新たなツールとしても有用であることが示された。研究成果をまとめた論文は8月、米科学誌「サイエンス」に掲載された。
記憶の仕組みをめぐる謎
記憶の仕組みをめぐっては従来、脳のニューロン(神経細胞)同士が強く結びつくことで長期的に安定して維持されると考えられてきた。紙にインクでメモを残すように、脳の中でも物理的な痕跡として記憶が保存されるとする説だ。
しかし、フランスの研究チームがマウスのニューロンを観察した2018年の研究では、ニューロン同士の接合部である「シナプス」の構造がわずか数日で大きく変化していることが示された。絶え間なく変化し続ける脳の中で、記憶はどのように安定に刻まれるのかは謎に包まれていた。
人工冬眠で脳の構造を調査
記憶の実体に迫るために、沖縄科技大の田中和正准教授らが着目したのが人工冬眠技術だ。動物が冬眠すると、脳の活動も大きく低下する。冬眠によって簡素化された脳の構造や活動を調べることで、記憶の維持に不可欠な構造や仕組みを見いだせると考えた。
そこで、今回のチームにも加わる桜井武・筑波大教授らが開発した人工冬眠技術を用いて、マウスを冬眠させた上で、冬眠の前後と最中の脳の状態を詳しく調べた。
シナプス消失でも記憶は維持
すると、冬眠中のニューロンの活動は約70%減少し、シナプスの半分以上が消失していた。それにも関わらず、冬眠後の行動実験では記憶障害が生じていないことが示された。



