兵庫県三田市の陶芸家・伊藤瑞宝さん(63)が、江戸後期にこの地で生産され「世界三大青磁」の一つと称された三田青磁の復興に取り組み、2025年8月に県伝統的工芸品の指定を受けた。途絶えた技法を忠実に再現する取り組みは、1990年頃から始まっている。
三田青磁は江戸後期に三田で生産され、中国・龍泉青磁、韓国・高麗青磁とともに「世界三大青磁」の一つと称された。しかし、原料の石不足や安価な陶器の流通により、昭和初期に閉窯した。
型押しと釉薬が生む「碧」
伊藤さんは京都市立芸術大で陶磁器を専攻。1988年に三田市へ移住し、1994年に築窯して独立した。市陶芸館(現・三田陶芸の森。)で講師を務める中で、市教育委員会が始めた三田青磁の調査研究に関わり、青磁石や陶石を探して当時の技法での作陶を始めた。
三田青磁の魅力は精巧な意匠と趣深い色合いにある。石膏の土型に粘土を指で押し当てる「型押し」により、複雑な形や精密な文様を生み出せたことが、安定した品質の青磁の供給につながり、大量生産を可能にした。
釉薬は通常2回、作品によっては4回かけ、三田青磁特有の凹凸のある厚みを出す。見た目の色合いは薄い緑や青、濃い緑など様々だ。「釉薬は本来は透明。透明なガラスに含まれた微量の鉄分の還元反応で発色する」と伊藤さんは話す。
微妙な釉色は古来、「秋の晴れた日の午前10時頃、北向きの部屋で障子一枚へだてたほどの日の光で見る青磁が一番美しい」とされてきた。伊藤さんは「見る時間帯やその周りの景色、状況によって見え方が変わる。だから色の幅がすごくある『碧(あお)』の言葉を僕はよく使う」と語る。
今では色合いの想定は大体つくようになったが、それでも「最終的には焼いてみないと分からない」からのめり込む。
唯一の担い手として
館長を務める「三田陶芸の森。」の作業場では現在、来年の干支「未(ひつじ)」にちなんだ羊の平皿(イヤープレート)作りが進められている。9月に開かれる伝統的工芸品指定記念茶会で、参加者に配られるものだ。
ふわふわした羊の毛をイメージした土型に粘土を押し当て、数日乾かして「素焼き」し、釉薬をかけて乾燥させた後、1250~1260度で15時間程度「本焼き」して完成させる。
現在、三田青磁の担い手はただ一人。江戸時代からの伝統的な文様に加え、型押しだけではなく、ろくろを使った制作や新しい意匠の作品にも積極的に取り組む。「焼かれた色が200年後でも、1000年後でもそのまま残るのが青磁。未来の人たちが僕の作品を見て『ああ、きれいだな』と思ってもらえたら」と、柔和な笑顔を見せた。
三田青磁は1799年(寛政11年)、市内の豪商・神田惣兵衛が京都の人形師・欽古堂亀祐を招いて「三輪明神窯」で本格的な生産が始まった。江戸や京都、大坂を始め、全国に流通した。県伝統的工芸品の指定を受け、三田青磁振興協会が技術継承や海外出展に向け、活動を始めている。



