国土交通省は8月7日、公募型プロポーザル(企画競争)情報として「基本計画路線に係るケーススタディ」を公開した。「四国の新幹線」と「東九州新幹線」について、輸送需要の推計、駅の位置および規模、ルート案などの調査委託先を募集する。この調査結果をもとに、今後の整備に向けた検討が進められる。
新幹線建設の手順と基本計画路線の歴史
新幹線建設の手順は次の通りとされている。
- 全国新幹線鉄道整備法に基づき、運輸大臣(現・国土交通大臣)が「基本計画路線」を定める
- 基本計画路線の中から日本政府が整備路線(整備新幹線)を決定する
- 整備新幹線の中から着工条件を満たした路線を着工する
今回のケーススタディは、基本計画路線から整備新幹線への格上げに向けた検討を進めるために行われる。
基本計画路線は、1971年に「東北新幹線(東京~青森)」「上越新幹線(東京~新潟)」「成田新幹線(東京~成田)」、1972年に「北海道新幹線(青森~旭川)」「北陸新幹線(東京~大阪)」「九州新幹線(福岡~鹿児島)」「西九州新幹線(福岡~長崎)」が告示された。これらの路線はすでに着工され、現在は成田新幹線を除く全線、あるいは一部区間で営業している。
成田新幹線は着工後に反対運動や用地買収の問題で工事が中止となり、整備計画が失効した。西九州新幹線は後に「九州新幹線(西九州ルート)」と呼ばれ、一部区間で先行開業。この区間に「西九州新幹線」の名称が与えられた。
1973年、11の基本計画路線が追加された。「北海道南回り新幹線(長万部~札幌)」「羽越新幹線(富山~青森)」「奥羽新幹線(福島~秋田)」「中央新幹線(東京~大阪)」「北陸・中京新幹線(敦賀~名古屋)」「山陰新幹線(大阪~下関)」「中国横断新幹線(岡山~松江)」「四国新幹線(大阪~大分)」「四国横断新幹線(岡山~高知)」「東九州新幹線(福岡~鹿児島)」「九州横断新幹線(大分~熊本)」である。
この中で、「奥羽新幹線」の福島~新庄間は山形新幹線、大曲~秋田間は秋田新幹線の一部として営業しているが、いずれも在来線を改軌して新幹線車両による乗入れを可能にした区間であり、正式な新幹線ではない。
政府はおもに予算面から整備新幹線を優先的に着手している。1973年に告示された11路線は、いわゆる「1972年組」の整備に一定のめどが立つまで整備決定を待たされていた。ただし、「中央新幹線」はJR東海が東海道新幹線の需要増と老朽化対策工事の必要性から「政府の整備決定を待てない」として、自己資本で工事に着手した。
「1973年組」の残り10路線についても、沿線自治体などから整備着手の要望が強かった。しかし、1987年に整備新幹線の着工5条件が定められると、自治体の要望活動に温度差が現れた。国鉄が分割民営化してJRとなったため、自治体にも建設費の負担が求められ、並行在来線の分離を承諾する必要があった。国鉄時代は負担なしで新幹線を誘致できたが、自治体負担と並行在来線分離が求められると、自治体も損得を見極める必要がある。
「四国の新幹線」と「東九州新幹線」は、沿線自治体などによるフル規格新幹線の要望がとくに強かった。半世紀越しの要望活動がようやく実りつつある。
四国4県の意向は「岡山~高知間を軸に」
ケーススタディに盛り込まれた「四国の新幹線」は、「四国新幹線」と「四国横断新幹線」の両方を示している。
基本計画に示された「四国新幹線」は、大阪を起点とし、淡路島を経由して徳島市、高松市、松山市を通り、豊予海峡で九州に渡り大分市に至る。全長約480kmで、大分駅にて「東九州新幹線」に接続する。京都や大阪から四国へ、瀬戸大橋経由より短いルートとなる。大阪・鹿児島間を最短で結ぶルートでもある。
淡路島と徳島を結ぶ大鳴門橋は、道路橋の下層に鉄道施設を設置できる構造となっており、将来の新幹線通過に対応している。しかし、本州と淡路島を結ぶ明石海峡大橋は道路のみ建設された。当初は道路と鉄道の併用橋だったが、「四国新幹線」建設の見通しが立たなかったことに加え、神戸側の地盤が鉄道施設や列車の通過に耐えられないなどの理由で道路単独橋となった。大鳴門橋も鉄道施設用空間を有効利用するため、徳島県側に遊歩道「渦の道」を建設。淡路島に渡るための「大鳴門橋自転車道」も建設が進められている。
基本計画案のままでは、本州と淡路島に新たな橋りょうまたはトンネルが必要となる。豊予トンネルも膨大な費用が予想される。そこで四国新幹線整備促進期成会は、四国外との連絡を瀬戸大橋に絞った新たな新幹線構想をまとめた。「四国横断新幹線」の岡山~高知間を基軸として、松山、高松、徳島を結ぶ。分岐点の地名は挙げられていないが、現在の特急列車と同様、宇多津駅で高松・徳島方面へ分岐、多度津駅で松山方面へ分岐になると思われる。この形態なら「徳島~高松~松山」「徳島~高松~高知」の四国内もスイッチバックなしで結べる。
四国新幹線整備促進期成会公式サイトの「基礎調査の概要(2014年)」によると、「四国新幹線」が山陽新幹線に乗り入れた場合、新大阪駅から四国4県の所要時間は1.5時間前後となる。リニア中央新幹線が全通した場合、この所要時間に新大阪駅での乗換え時間を考慮すると、東京都内から四国4県まで2時間52分(高松)・2時間55分(松山)となり、航空路線に対抗する「4時間の壁」を突破できる。概算事業費は1.57兆円、費用便益比は「1.03」となった。
2022年3月、JAPIC(一般社団法人 日本プロジェクト産業協議会)は岡山駅から多度津付近まで複線、その他は単線での整備を提案した。これにより、概算事業費を1.04兆円まで圧縮できる一方、費用便益比は「1.56」まで上昇する。
筆者は単線案に反対だ。運行本数に制限が加わり、高需要期の増発が難しい。遅延回復に支障するから、山陽新幹線に乗り入れるとすれば、四国内の遅延が山陽新幹線だけでなく、東海道新幹線に波及するおそれもある。政府が打ち出した「経済財政運営と改革の基本方針 2026(骨太の方針)」では、整備新幹線の目的を「成長投資を支える基盤」ととらえている。単線での整備では、沿線の成長の限界点を低めてしまう。
ケーススタディの調査結果によって、基本計画案と四国新幹線整備促進期成会の案、単線整備案と複線整備案の利点・欠点が明確になるだろう。
大分県は福岡市へ直行するルートを提案
基本計画に示された「東九州新幹線」は、日豊本線をなぞるルートが想定されてきた。1973年の告示では、「起点・福岡市」「終点・鹿児島市」「主な経由地・大分市と宮崎市」となっている。東海道新幹線のような「在来線の複線追加」という考え方だと、博多駅から小倉駅まで山陽新幹線を共用(直通)して小倉駅で分岐し、そこから南下して大分や宮崎を通り、鹿児島中央駅に至る。新大阪駅からの直通を念頭に置く場合、分岐は現在の日豊本線と同じく小倉駅の西側にできるだろう。その場合、博多駅から大分・宮崎方面を結ぶ列車は、現在の特急「ソニック」「にちりん」のように小倉駅で進行方向が逆になる。
一方で、現在の九州における鉄道ネットワークは福岡市内(博多駅など)を中心としている。そのため、「東九州新幹線」を小倉駅の東側で分岐させ、博多方面からのスイッチバックを解消することも考えられる。国鉄時代は東京・大阪を中心とした全国ネットワークを形成していたが、分割民営化後のJR各社は必ずしも東京にこだわっていない。JR北海道が札幌駅中心のダイヤ編成に切り替えたように、JR九州も博多駅中心のダイヤ編成になっている。「日豊本線に沿う必要はない」という考え方も出てくるだろう。
大分県東九州新幹線整備推進期成会は、2023年に「東九州新幹線調査報告書」を発表した。この中で、「日豊本線ルート(小倉~大分)」の他に「久大本線ルート」が比較検討された。「久大本線ルート」は九州新幹線の新鳥栖駅から分岐し、直線的に大分市へ向かう。基本計画路線の「東九州新幹線」は経由地に北九州市を含まないため、福岡市から大分市へショートカットしても「東九州新幹線」の定義に反しない。従来の想定を覆す妙案といえる。
所要時間を比較すると、博多~大分間で「日豊本線ルート」は47分。「久大本線ルート」は46分と、ほとんど変わらない。在来線の特急「ソニック」は129分かかっているため、どちらを取っても80分の短縮になる。小倉~大分間は「日豊本線ルート」で31分となり、現行の在来線特急列車より52分の短縮。熊本~大分間は「久大本線ルート」で89分となり、現行より104分の短縮。長崎~大分間は「久大本線ルート」で107分となり、現行より111分の短縮となる。
整備費用は「日豊本線ルート」約8,195億円、「久大本線ルート」約8,339億円。「久大本線ルート」はトンネルが多く、約144億円高いが、「日豊本線ルート」も橋りょうが多いためか、大きな差ではない。需要予測は「久大本線ルート」が高い。費用便益比は、社会的割引率を4%とした場合にどちらも「0.7」程度だった。しかし、社会的割引率を2%とする場合、どちらも「1.2」を超えた。社会的割引率は償還期間の貨幣価値を反映するための数値で、国債の長期金利を参考にする。従来は基本的に4%を使っていたが、近年の金利低下を反映して、2%や1%を採用する考え方もある。
「久大本線ルート」の欠点があるとすれば、北九州市を通らないことだろう。北九州市の人口は約90万人。いまも九州島内で福岡市に次ぐ人口を有する都市である。新幹線建設において無視できない都市といえるだろう。
JR九州は「久大本線ルート」を歓迎するかもしれない。「日豊本線ルート」の場合、小倉~博多間で山陽新幹線と共用するため、この区間はJR西日本の売上になってしまう。大分県としては、「日豊本線ルート」が採用されると、並行在来線として日豊本線が指定される。この路線はJR九州から分離してほしくないと思われる。一方、「久大本線ルート」が採用されれば、並行在来線は久大本線となる。こちらは分離せざるをえないだろう。
宮崎県も「新八代ルート」など…大分県の案との違いは
宮崎県も独自ルートを検討している。2024年に公開された「東九州新幹線等調査の結果について」によると、「日豊本線ルート全区間」の他に「新八代ルート」と「(日豊本線)鹿児島中央ルート」を比較していた。「新八代ルート」は九州新幹線の新八代駅から分岐し、九州を横断して宮崎駅に直行する。こちらは基本計画路線に沿わない独自ルートの提案となる。「鹿児島中央ルート」は「日豊本線ルート」のうち、宮崎~鹿児島中央間のみを対象とする。
「鹿児島中央ルート」を先行して整備する「鹿児島中央先行ルート」も含めて試算結果を比較すると、整備費は「日豊本線ルート」3兆8,068億円、「新八代ルート」1兆4,978億円、「鹿児島中央先行ルート」1兆642億円。福岡市までの所要時間は、「日豊本線ルート」が98分で現行より133分の短縮、「鹿児島中央先行ルート」が132分で現行より99分の短縮、「新八代ルート」が84分で現行より147分の短縮となった。北九州市までの所要時間は、「日豊本線ルート」が79分で現行より220分の短縮、「鹿児島中央先行ルート」が148分で現行より151分の短縮、「新八代ルート」が103分で現行より196分の短縮となっている。「新八代ルート」も「鹿児島中央先行ルート」も、現在の大分経由より早く着く。
費用便益比を社会的割引率4%で計算すると、3ルートとも「0.4」~「0.5」。社会的割引率を1%とした場合にようやく「1」以上となる。前述の通り、社会的割引率は国債の長期金利を参考としており、2%に上昇したと報じられたばかり。それだけに、かなり厳しい数値といえる。
大分県が発案した「久大本線ルート」は、宮崎県の「日豊本線ルート」にも恩恵がある。一方で、宮崎県が発案した「新八代ルート」と「鹿児島中央先行ルート」は、大分県を無視して福岡市へ向かうルートといえる。大分~宮崎間の所要時間は現行で約3時間30分となっており、新幹線で短縮したいところだが、大分県も宮崎県も福岡市への所要時間短縮を重視している。
「基本計画路線に係るケーススタディ」で、両県の希望がどこまで調査に反映されるか。整備新幹線に格上げできる材料になることを期待したい。



