熊本地震でSNSに根拠なき情報「炊き出しでイスラム教徒に配慮」…自治体は「宗教的対応していない」
熊本地震でSNSに根拠なき情報「炊き出しでイスラム教徒に配慮」

7月の熊本地震で、避難所での炊き出しを巡り、「イスラム教徒への配慮から豚肉が提供されなかった」との根拠不明の情報がSNSで拡散した。各市町への取材では夏の間、自治体による炊き出しは実施されず、提供される食事への宗教的な対応もなかった。災害時は人々の不安や混乱に乗じ、デマや誤情報が広がりやすく、注意が必要だ。

拡散した投稿とその内容

「避難所の炊き出しで豚汁はやめよう?ムスリムが日本に遠慮をしろ」「豚肉が嫌なら雑草でも食ってろ」。X(旧ツイッター)では7月28日の発災後、こうした投稿が相次いだ。多くは、外国人に批判的な主張を繰り返すアカウントが発信元だった。

大半は、熊本の避難所で豚汁などの炊き出しが行われたとの前提で、イスラム教徒が豚肉を使わないように要求したり、提供側が自主的に配慮したりしているかのような内容だった。

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このうち、千葉県の自営業の男性(65)は地震発生の6時間後、保守系を名乗る自身のアカウントに「熊本県の避難所で大問題。炊き出しの豚汁、カレーは豚肉無し」と投稿した。この投稿は今月12日までに110万回以上閲覧され、外国人に批判的なコメントが多数付いた。

男性は4日、電話での取材に応じ、投稿内容が虚偽だと認めた上で、過去の災害で「ハラール食」が提供されたとの情報に接し、「どうして日本国内でイスラム教が優遇されるのか」と怒りを感じていたと明かした。男性は「今回の地震でも、こういうことが起き、イスラム教徒が優遇されると予測して投稿した。地震から6時間しかたっていないし、偽の情報であることはわかるはずだ」と話した。

自治体の対応と実態

実際はどうだったのか。読売新聞は、震度6強以上を記録した熊本市や氷川町など8市町に、避難所での炊き出しの有無について質問したところ、7市町は「食中毒の危険がある」(宇城市)などとして実施せず、パンや弁当、カップ麺を配布したと回答した。八代市が「態勢が整った」としてみそ汁やカレーの炊き出しを始めたのは9月4日になってからだった。

自治体はいずれも「食事に関して、これまで宗教的な配慮は特にしておらず、イスラム教徒からの苦情は把握していない」としている。取材の結果、イスラム系団体がチキンカレーの炊き出しを行ったことは確認できたが、他に料理で意図的に豚肉を使わなかったケースは確認できなかった。

読売新聞がSNS分析ツール「ソーシャルインサイト」で、「地震」「豚肉」などの言葉を含むXの投稿(リポストを含む)を調べたところ、発生翌日の29日には2万件超に跳ね上がった。その後は減ったものの、8月は多い日には1万件を超えた。Xには、注目を集める投稿内容を人工知能(AI)で要約して閲覧者に表示する機能がある。8月上旬、熊本地震での炊き出しについて「イスラム教徒から苦情が出ている」と誤情報が表示されるまでになった。

被災者と関係者の声

氷川町で被災したインドネシア国籍で、イスラム教徒のディマス・バガスさん(24)は、避難所で提供されたパンやカップ麺を食べたという。「おいしい食事をもらってうれしかった。日本人が優しくしてくれたし、気を使ってくれた」と話した。

イスラム教徒らでつくる「熊本イスラミックセンター」(熊本市)のマーロ・スイスワヒュ代表(51)は、災害時などの有事に豚肉を食べることは宗教上、禁止されているわけではないと指摘する。イスラム教徒らによる苦情は把握していないといい、「私たちは日本の文化を尊重して、住んでいる。SNSで誤った情報が広まっているのは悲しい」と語った。

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巨大災害が起きるたびに、デマや誤情報が出回ることが繰り返されてきた。1923年の関東大震災では「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などのデマが広がり、多くの朝鮮人が殺害された。2011年の東日本大震災では「外国人が金品を盗み、暴力をふるっている」など根拠不明の情報が被災者らに広まった。

今回の熊本地震での状況について、東京大の関谷直也教授(災害情報論)は「被災地に限らず、人々の間に大きな余震などへの不安があった。災害情報が求められている中で、排外的な考えを持つ人たちが意図的に投稿した内容がSNSを通じて全国に拡散したのではないか」とみている。