従来、銀行融資はスタートアップにとって高いハードルだった。審査が進んでも、融資実行まで最短で3カ月の期間を要する。しかし、AIとデータ活用により、金融機関の審査や融資判断の在り方が変わり始めている。
マッチングプラットフォーム「ゼヒトモ」を手掛けるZehitomo(東京都品川区)は、データ駆動型融資(ベンチャーデット)を活用し、わずか1カ月で数千万円規模の融資を実現した。これは、フィンテックベンチャーのFivot(東京都港区)が運営する「RFC Venture Debt Fund 1号投資事業有限責任組合」を利用したものだ。
融資までのスピードを劇的に短縮
RFC Venture Debt Fundは、膨大な入金データなどから、決算書だけでは見えない信用力や将来性をAIで解析し、わずか1カ月で数千万円規模の融資を決定した。Zehitomoのファイナンシャル・ディレクターを務める畔柳洋平氏は、その背景を説明する。
「弊社は、さまざまな業種のプロ事業者とユーザーをつなぐマッチングプラットフォームです。2015年に2人のアメリカ人が『日本人の働き方をより自由に、より豊かにしたい』との思いからサービスを開始しました」
マッチングプラットフォームでは、契約が成立した際に事業者が手数料を支払う「成立課金型」が一般的だ。それに対してゼヒトモは、事業者がユーザーに紹介された時点で課金される「応答課金型」を採用している。紹介後は何度やり取りや商談を重ねても追加課金は発生しないため、事業者はリピーターを増やすほど利益を確保しやすい仕組みとなっている。
「銀行の壁」を破ったデータ駆動型融資
事業を力強く成長させるには、手元資金の安心感は不可欠だ。しかし、金融機関はリスクの高い企業には貸したがらない。スタートアップへの融資は金融機関にとってハイリスクになりがちなため、融資を得るためのハードルは高い。仮に話が進んでも融資決定までに最低でも3カ月はかかるという。
畔柳氏は、3年前からZehitomoで経営管理や資金調達、それに法務や経営企画と幅広い分野を担当してきた。その中で、金融機関からの風当たりの強さを感じてきたと話す。
「私たちは黒字化目前ではあるものの、いろいろと波もあるので、ファイナンスとしては常に『最悪のケース』を考える必要があります。同時に、手元資金があることによって安心感にもつながりますし、次の動きが全く違ってきます。そこで資金調達は常に検討してきましたが、スタートアップに対する金融機関からの風当たりはやはり強いですね。かつて在籍していた大手企業で資金調達をする場合とは、全く違うと感じました」
10万件の入金データをAIが解析
資金調達の方法を模索する中で、畔柳氏がりそな銀行から紹介されたのがRFC Venture Debt Fundだった。RFC Venture Debt Fundはスタートアップが株式を発行せずに、融資型で資金を調達できるデータ駆動型のデット調達(ベンチャーデット)サービスを提供している。
畔柳氏が驚いたのは、その審査の方法だ。融資を申し込む際に、決算書や資金繰り表、商業登記簿謄本などの一般的な書類に加えて、10万件以上の入金データの提出が求められたと畔柳氏は明かす。
「ゼヒトモには、年間で2万〜3万件の入金データがあります。決済代行会社のサービスを利用しているので、このデータを抽出し、数年にわたる10万件以上のデータを提出しました。これは金融機関の審査項目にはないデータです。RFC Venture Debt Fundには、大量のデータをAIによって分析できるツールがあります。当社の入金データから、入金がどのように発生しているのかといったトレンドなどを見て、信用力や将来性などを評価していただきました」
株式を発行せず数千万円をどう引くか
さらに畔柳氏が驚いたのは、融資決定までのスピードだ。審査を開始してから、融資が実行されるまで1カ月しかかからなかった。
「データをお渡しして数回ほどのやりとりがありました。レスポンスも非常に早く、審査開始からわずか1カ月で数千万円の融資を受けることができました。このスピード融資は、銀行ではできないことだと思います」
Zehitomoでは、株式を発行するエクイティ調達の累計が37億円に上る。りそなホールディングス傘下のりそなキャピタルが株主になっている実績があり、りそな銀行からRFC Venture Debt Fundの紹介を受けた経緯があるという。
ただ、エクイティ調達だけでは問題も残る。デット(融資)も組み入れることのメリットを、畔柳氏は次のように感じているという。
「一定規模の株主がいる場合、ベンチャーキャピタル(VC)からの無計画な調達は、株式の希薄化を招くため、慎重な株主と拡大優先の株主で意見が割れることがあります。その点、デットでの調達であれば、株主構成や議決権比率に影響を与えずに資金を確保できるメリットがあります」
「IPO(上場)時に、株主の大半が短期的なリターンを求めるVCで占められていると、上場後の売り圧力を懸念され株価形成に悪影響を及ぼすリスクがあります。事業シナジーを見込める事業会社などの『中長期的なパートナーとなる株主』を見つけるのは容易ではありません。そうした最適な株主選定や条件提示の時間を稼ぎ、短期的な資金リスクを抑える意味でも、デット調達は極めて有効な選択肢だと考えています」
ビジネスモデルと審査の親和性
もちろん、デットが合うかどうかはビジネスモデルにもよる。畔柳氏は、Zehitomoの事業がデットと親和性があったのではと分析する。
「一般的な長期ローンでは、これまでの決算実績や担保に加え、経営者や企業そのものの信頼性が重視されます。一方で、今回の資金調達では、顧客から継続的に得られる収益(リカーリング・レベニュー)やリピート率といった、事業の再現性と成長性を示す『リアルタイムなデータ』が主要な審査軸となったと思います」
ゼヒトモがマスをターゲットとしたビジネスモデルで、データドリブンな環境だったことも、大きなポイントになったと感じている。
「大口の顧客に依存するビジネスであれば、審査項目は通常の融資とあまり変わらなかったかもしれません。データとAIの活用が、ビジネスモデルと資金調達の両方を後押ししてくれています」
デットをはじめ、スタートアップが資金を調達しやすい手段は段階的に増えている。畔柳氏は「新たな資金調達の手段に挑戦してみることが大事」と話していた。ビジネスモデルも、融資審査も、AIの進化とともにこれからも変わっていくだろう。



