セミセルフレジ導入でも人件費が減らない理由:設備投資を空回りさせる「シフトの落とし穴」
セミセルフレジ導入で人件費削減できない理由

小売業界では、セミセルフレジの導入が急速に進んでいる。大手スーパーマーケットはもちろん、大手中小チェーンの一部店舗でも導入されるほど普及した。人手不足対策として有効な設備投資であることは確かだが、「導入したのに人時生産性が思ったほど上がらない」という声も現場から聞こえてくる。なぜそうなるのだろうか。

レジ処理効率は確実に向上するが…

結論から言えば、セミセルフレジによってレジの処理効率は確実に上がる。レジベンダー各社が過去に公表してきたデータには、セミセルフレジの導入によりレジ作業効率が1.5〜2倍に向上するという数値が並ぶ。ただし、これらはやや古い時期に測定された数字が多いことに注意が必要だ。

有人レジでは、店員が商品をスキャンし、金額を告げ、現金またはキャッシュレス決済まで一連の作業を行う。一方セミセルフレジでは、スキャンは店員だが、支払いは来店客自身が行う。店員は決済のやり取りをする必要がない分、1人当たりの対応時間が短くなる。

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現在は○○ペイなどの決済手段が多様化し、ポイントカードの読み取り、クーポン適用の有無、電子マネーの残高チャージなど、支払いに関するオペレーションが以前より複雑化している。結果として、有人レジ1人当たりの処理時間はむしろ延びる傾向にある。だからこそセミセルフレジの有用性は増している。

本稿では、有人レジ1人当たりの処理時間を70秒、セミセルフレジ1人当たりの処理時間を45秒と仮定して試算する。すると1時間あたりの対応客数は次のようになる。有人レジ:3600秒 ÷ 70秒 = 約51人。セミセルフレジ:3600秒 ÷ 45秒 = 80人。増加倍率は約1.56倍。つまり、同じ1台のレジで1時間に処理できる客数が5割以上増える計算だ。店員のレジ対応時間の短縮率に換算すると約36%になる。

3台のレジを運用するケースで比較すると、有人レジ3台では1時間あたり約154人に対応できるが、セミセルフレジ3台では240人。差は86人だ。ピークの1時間に150人の会計が必要な店舗では、有人レジなら3台が必要な一方、セミセルフレジなら2台で賄える。レジ担当者1人を品出しや売り場メンテナンスに振り替えられる計算になる。

数字だけ見ると、セミセルフレジは非常に優れた省人化投資に見える。ところが、実際の店舗運営でレジ人時生産性の向上効果が2割程度に留まるケースは少なくない。その主な要因は2つある。

セミセルフレジの効率を下げてしまう「2つの要因」とは

要因1:「0.5人分」をそのまま削減できない

セミセルフレジの導入によって、ある時間帯に必要なレジ人員が理論上「3人」から「2.5人」相当に下がったとしよう。しかし、シフトに「0.5人」を配置することはできない。何も工夫しないと3人配置を維持せざるを得ないため、レジ担当者の手待ち時間が増えるだけで、人時削減にはつながらないのである。つまり余力が「端数」として残る限り、設備投資の効果は見えにくくなる。

要因2:LSPと連動していないシフト設計になっている

もう一つの要因は、LSP(Labor Scheduling Program)との連動不足である。LSPとは、売上予測・客数予測・作業量データなどを基に、時間帯別・部門別の人員配置を計画するシステムを指す。多くの大手小売チェーンが導入しているが、レジ設備の変更に合わせて計画を見直すケースは意外と少ないのだ。

レジ処理効率が上がっても、LSP上の「レジ必要人員」の計算ロジックが旧来のままであれば、出勤人数やシフトは変わらない。設備だけが新しくなり、配置人員は従来通りという状態が続くのである。

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LSPと連動し、シフトを再設計するのがポイント

セミセルフレジの投資対効果を引き出すには、LSPと連動したシフト再設計が不可欠だ。具体的には、レジ担当を「専任」と「兼任」に分けて設計する方法が有効である。

専任レジ担当は、通常時のレジ対応を担う。レジ待ち人数が一定を超えた場合に限り、兼任レジ担当を呼び出す仕組みにするのだ。兼任レジ担当は、通常時は品出し・前進陳列・売場メンテナンスを行い、必要なタイミングだけレジ応援に入る。

この運用を成立させるには、LSPにセミセルフレジ導入後のレジ処理速度データを反映し、時間帯別に必要な専任人員を再計算することが前提となる。客数予測の精度が高いほど、兼任担当の呼び出し判断を適切に行えるため、品出し作業を止めるロスも最小化できる。また、来店客を過度に待たせる事態も回避できる。

病院のクローガーの取り組みが参考になる。同社はセミセルフレジ導入後、LSPと連動したシフト再編成を実施し、レジ担当者の生産性向上と品出し業務の効率化を両立させたと報告している。

設備投資だけでは人件費削減は実現しない。シフト設計の見直しまでセットで行って初めて、セミセルフレジの真価が発揮されるのだ。