東京農工大学などの研究チームは6月26日、オスのイノシシがメスの死体に対して交尾行動を行う様子を野生下で記録したと発表した。同種あるいは近縁種の死体への交尾行動は世界的に珍しく、霊長類では11例目、有蹄類では4例目、有蹄類では初の事例という。
センサーカメラで死体への反応を記録
動物の死体を自然下で見つけるのは難しく、野生動物が同種の死体に示す反応については、死体の分解過程に着目した生体学でも、動物の死生観を調べる死生学でも、知見に多くの空白や特定の動物種への偏りがある。そこで研究チームは2023年10月1日から11月11日にかけて、栃木県日光市の森林内に1頭のメス成体のイノシシの死体を設置し、腐敗化するまでの様子を、動物の熱を感知して自動で静止画や動画を撮影するセンサーカメラで記録した。
オス1頭が13日間で12回訪問、交尾行動を確認
カメラが捉えた映像では、3頭のイノシシが死体に接近。うち1頭のオス成体が10月6日から18日までの13日間で12回訪れていた。このオスの行動を詳細に分析したところ、1回目と2回目の訪問(いずれも10月6日)で、メスの死体に対して交尾行動を行っていた。
継続的な関心示すも、個体差あり
オスは交尾行動にとどまらず、死体が腐敗化するまでの間、死体を足で踏んだり、そのそばで休息したりと関心を示し続けた。イノシシはまれに同種の死体を共食いすることが知られるが、今回はどの個体も死体を食べることはなかった。また、死体に接近した残る2頭には、このオスのような継続的な関心行動は見られず、死体への反応には個体差があることも分かった。
研究の意義と今後の展望
イノシシは世界的に広く分布する社会的な有蹄類だが、その社会構造は霊長類や鯨類に比べて単純で、手厚い子育ても行われない。死生学の研究は複雑な社会を持つ動物が中心で、イノシシはこれまで対象になってこなかった。研究チームは、あくまで1事例にすぎず、オスがなぜメスの死体と交尾行動に及んだのか、継続的な関心行動にどのような目的があったのかも分かっていないとしている。それでも、こうした事例を地道に集めることが死体への反応の解明につながるとして、よりさまざまな分類群や動物種で観察データを蓄積し、比較していく必要があるとの見方を示している。
センサーカメラの有用性
さらに今回の調査では、死生学研究におけるセンサーカメラの有用性も示されたという。すでに生体学分野では撮影手法として急速に広まり、集まるデータも膨大になっている。こうしたデータは死生学に重要な知見をもたらしうるとして、今後の研究の発展に期待を寄せている。研究成果は、英生体学誌「Ecology and Evolution」のオンライン版に6月16日付で掲載された。



