将棋の第39期竜王戦決勝トーナメントを1回戦から勝ち進み、タイトル挑戦まであと一歩に迫った柵木幹太五段(28)。今年度は公式戦15連勝を記録し、連勝ランキング(9日現在)で暫定1位となる活躍を見せるが、ここまでの道のりは決して順風満帆ではなかった。
挑戦権を逃した大一番、悔しさと手応え
8月24日、東京都渋谷区の将棋会館で行われた竜王戦挑戦者決定三番勝負の第3局。勝てばタイトル初挑戦、七段昇段という大一番で果敢に攻め、服部慎一郎七段(27)をリードした。だが最終盤で反撃にあい、藤井聡太竜王(24)への挑戦権がこぼれ落ちた。
決勝トーナメントでは、前年まで2年連続で挑戦者となった佐々木勇気八段(32)、永瀬拓矢九段(34)らトップ棋士を破り、ファンに夢を見せた。「さすがに悔しいが、終盤は自分がもうちょっと強ければ。また強くなるしかない」と巻き返しを期す。
三段時代の苦闘、14期を経てプロ入り
愛知県西尾市出身。将棋は幼少期に父から教わった。面白さにはまり、休日はケーブルテレビの将棋番組を見続けた。小学1年から地元の将棋道場に通い始め、11歳だった2009年9月、増田裕司七段門下で、棋士養成機関の奨励会に入り、18歳で三段になった。
三段になると半年に18局指すリーグに出場し、上位2人に入るか、次点(3位)を2回取ればプロの四段になれる。だが16年度前期の第59回三段リーグは最下位。続く第60回も負け越した。当時は年上が多く、萎縮していた。それが感想戦で「相手も自信がなく、自分と変わらない」と気づいて、吹っ切れた。
奨励会は原則26歳までに四段になれなければ退会となる。「いつかは上がれる」と信じていたが、21年度前期の第69回は、勝てば昇段の最終局に敗れ、次点に終わった。帰り道の駅で涙が出た。後輩が次々と四段になっていく。それでも「そろそろ自分の番のはず」と前を向き続けた。プロ入りを決めたのは22年度後期の第72回。2回目の次点をとり、23年4月、25歳で四段になった。14期に及んだ三段時代を「苦しんだが楽しんだ」としみじみ語る。
編入試験での勝利と、服部七段との練習将棋
次点2回でプロとなった棋士は、名人戦の予選リーグ・順位戦を指さないフリークラスに所属。10年以内に「30局以上で勝率6割5分以上」などの成績を上げなければ引退となる。1年目の勝率は5割台。飛躍のきっかけの一つとなったのが25年1月、西山朋佳女流四冠(31)の棋士編入試験第5局だった。
西山女流四冠が勝てば、女性初の棋士誕生となる一戦。大勢の報道陣が見守る中、相手の飛車を押さえ込み、勝負手に的確に対応して勝利し、「自分らしい将棋が指せて自信になった」。3か月後にはフリークラスから脱出した。25年度は竜王戦6組から5組に昇級し、加古川青流戦で準優勝。勝率は7割台に達した。
26年度も竜王戦5組決勝に進出し、規定により五段に昇段。そのまま5組を制し、決勝三番勝負まで駆け上がった。「出来過ぎなところもあったが、振り駒で先手を引け、作戦選択もよかった」と振り返る。
そして「勝てるようになったのは服部さんのおかげ」と感謝する。服部七段とは今年に入って月1~2回、実戦形式の練習将棋を指していた。それまで中終盤で時間がなくなり、形勢を悲観して焦るところがあったが、様々な戦型をこなす服部七段と指すうちに「打開策があると気づけた」。その後、苦しい時も善戦できるようになったという。
三番勝負で服部七段に敗れたが、「力を出し切れたので、納得している。強い先生に当たるのは楽しい。そういう意味で今期の竜王戦はとても楽しかった」。確かな手応えをつかみ、先を見据える。「まずは現状の勝率を維持したい。さらに力をつけてあの舞台でまた戦い、次こそは挑戦できたら」と力を込めた。