米ティーボール、失敗も褒める独特の子育て術とは
米ティーボール、失敗も褒める独特の子育て術とは

アメリカの幼児向け野球「ティーボール」では、空振りしても「グッド・スイング」、エラーしても「グッド・トライ」と、大人たちは失敗した子どもにも惜しみなく声をかけます。勝敗をつけず、なぜできなかったことまで褒めるのでしょうか。子どもがスポーツを好きになり、自信を育てていく独特の仕組みを、『世界の一流は「子ども」に何を教えているのか』(冷泉彰彦/クロスメディア・パブリッシング)から抜粋して紹介します。

ポジティブな声かけで育つ野球少年たち

近年ではサッカーやバスケに押されているとはいえ、野球はアメリカの国技(ナショナル・パスタイム)であることは間違いありません。そのアメリカ野球の頂点に立つのがMLBだとすれば、そこに多くの人材を供給する裾野としては、リトルリーグの少年野球があります。

大人の野球よりフィールドが狭く、盗塁に制約があるなど、子ども向けに工夫されたリトルリーグは日本にもありますし、日本代表がアメリカで開催される国際大会に勝つこともあります。ただ、実は、アメリカの場合はリトルリーグの前段階として「ティーボール」というものがあることは、あまり知られていません。

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ティーボールとは

この「ティーボール」の「ティー」は、大人の選手が静止球を使って打撃練習をする際に、ボールを置く伸縮自在の棒のことです。ゴルフの「ティー」と同じ原理ですが、ホームベース型の台の上に合成ゴム製の太い棒が垂直に立っており、その上にボールをセットして打ちます。棒が伸縮自在なのは、身長に合わせてボールの高さを変えるためです。

要するに、打撃は常に静止したボールを打つのであって、投手は存在しません。これが5歳の子どもたちの野球「ティーボール」です。グラウンドには通常、普通の芝生を使います。ベースはゴム製の簡易式のものを置いて、もちろんホームベースは「ティー」が兼ねます。

ルールと流れ

ルールは単純です。棒の上に置かれたボールをバットで打って、フェアゾーンに入ったら一塁に走ります。ゴロやフライを処理すればもちろんアウトになりますが、通常はそんなプレーはまず起きません。何となく、全員が内野安打もしくは内野エラー的なプレーで出塁していきます。

で、結果的にどんどん点が入りますが、それでは攻撃が終わらないので、攻撃側のチームの全員が打ったら、最後のバッターが塁を一周して自動的に「チェンジ」ということにします。これを繰り返して、約1時間ゲームをしたら、それで終わり。公式には点数を数えないことになっているので、勝敗もありません。お互いに「グッドゲーム(いい試合だった)」と言いながら整列して、ハイタッチの挨拶をしてお開きです。

これを4月から6月のシーズン中に、毎週土曜日の午前中に1試合ずつ消化して、1シーズンが終わりになるのです。

徹底的に褒める文化

「ティーボール」の特徴は、とにかく子どもを褒めるということです。親もコーチも一体になって、ひたすらに褒めるのです。ティーボールにも空振りはあります。静止球の上で、バットが空を切る、あるいはボールの下の台を叩いて、ボールがポトリと落ちることもあります。そんな空振りに対して、非難する大人はいません。

空振りに対するかけ声は決まっています。どんなに格好の悪い空振りでも、「グッド・スイング」の声が間髪を入れず親やコーチから飛ぶのです。反対に、バットがボールに当たって、フェアゾーンに行けば、それこそ「グッド・ヒット」であるとか「グレート!」と大変な褒めようになります。

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守備も同じです。少しでも捕球に向かって動いたら「グッド・トライ」です。トンネルしようが、落球しようが、親もコーチも大声で「グッド・トライ」。万が一、本当に捕球でもしようものなら「グッド・キャッチ」の大騒ぎになるという具合です。

成長とともに変わる声かけ

まるで「おままごと」の野球ですが、あらゆるプレーを褒める、つまり大人たちが愛情の量を埋め込んでいくことで、子どもたちは人生における幸せな野球との関わりをスタートさせることができるのでしょう。

やがて、子どもたちは投手の投げる「動くボール」を打つリトルリーグに進みますが、そこでも当分の間は、空振りでも「グッド・スイング」、エラーでも「グッド・トライ」のかけ声が飛んできます。そして、やがて小学校の高学年になり、勝負が本格化して、上級リーグと中級リーグに分かれる頃には、あまりにも「わざとらしい」褒め言葉は少なくなっていきます。子どもたちは、そのことで自分の成長を感じていくというわけです。

以降は、露骨な褒め言葉はなくなります。ですが、大人に近いルールの中学生以上の「シニアリーグ」や、街の花形である高校部活の代表チームといったレベルでも、「雑用は選手にはさせず、監督が黙々とやる」「全員を必ず試合に出場させ、補欠はない」など、独特のポジティブ・アプローチが続くのです。