新型Mac mini/Mac Studioを実機レビュー、エージェントAIは実用域へ
新型Mac mini/Mac Studioを実機レビュー、エージェントAIは実用域へ

発表から約1カ月——9月22日、ついに新型の「Mac mini」「Mac Studio」が発売される。発売に先んじて、Appleから1週間ほど新しいMac mini/Mac Studioを借りて試すことができた。Mac miniはM6チップ(12コアCPU+12コアGPU)/32GBメモリ/2TB SSD/10Gbps有線LAN、Mac StudioはM5 Ultra(36コアCPU+80コアGPU)/256GBメモリ/4TB SSDという構成で、Apple Storeにおける販売価格は前者が41万9800円、後者は217万3800円となる。

今回は、公開されているAIモデルを2台のマシンに載せた、指示すれば一連の作業を自分で進める「エージェントAI」を1日中働かせて、実務にどこまで使えるかという点に焦点を絞ってレビューすることにした。

ローカルAIがより実用的になった背景

最新プロセッサを搭載したデスクトップPCということもあり、Mac miniであってもそこそこパワフルだ。長年のパートナーになれるだけのポテンシャルもある。ただ、このことはベンチマークテストの結果を見れば一目瞭然だ。

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新しいMac mini/Mac Studioを見る上で重要なポイントは、「AIを動かすコンピュータ」という観点での大きな変化だ。それは驚きの連続で、特にMac Studioの場合はクラウドAIに任せていた仕事が、ローカル環境で完結できるようになった。Mac miniもAI処理パフォーマンスが向上しているので、「エージェンティックな処理をある程度ローカルに任せて、朝起きたときにレポートを見れば何をすべきか分かる」という使い方ができる。

コンパクトなAIモデルでもここまで動くようになるとは、知識としては知っていても実際に体感すると驚きでしかない。

理由その1:「ユニファイドメモリ」という考え方が広まった

理由の1つ目がメモリアクセスの構造変化だ。もっとも、この点はApple Siliconを搭載するMacでは元々解決していることでもある。

AIモデルは、稼働時に本体プログラムを丸ごとメモリに載せる。そのため、載せられるモデルの大きさは、メモリの量に比例する。処理にGPUを使う一般的なPCやサーバの場合、システムメモリとは別にGPU専用の「グラフィックスメモリ(VRAM)」が存在し、VRAMの容量が動かせるモデルの大きさを左右することになる。

それに対して、Apple Siliconの場合はCPUとGPUが同一のメモリを共有する「ユニファイドメモリ」というアーキテクチャを採用しているので、搭載しているメモリの容量が、動かせるモデルの大きさに“直結”する。PCという枠組みのまま、Mac Studioなら最大256GB(10月下旬からは最大512GB)をGPUで動くモデルに割り当てられる。

ユニファイドメモリ自体は、AMDの「Ryzen AI Max」シリーズやNVIDIAの「RTX Spark」といったWindows PC向けプロセッサ、あるいはRTX Sparkのベースになったと思われる「DGX Spark」でも採用されている。しかし、これらのプロセッサはM5 Ultraチップ(毎秒1.2TB)と比べるとメモリ帯域が狭い(毎秒256〜273GB)という問題を抱えている。

今のところ、ユニファイドメモリを使いつつ広いメモリ帯域を確保しようとすると、Appleのプラットフォームしか選択肢がない。Windows PC向けプロセッサでもユニファイドメモリを採用するケースが出てきたが、Apple Siliconほどにメモリ帯域を確保したものはない。

理由その2:メモリのアクセス速度向上

理由の2つ目として、その大きなメモリを「読む」速さが変わった点が挙げられる。

生成AIの中核となるLLM(大規模言語モデル)の仕事は、入力を読み込む「プロンプト処理(プリフィル)」と、答えを1トークンずつ出す「生成」に分けられる。前者の処理は行列演算の“解”なので、そのパフォーマンスはGPUの演算能力で決まる。一方、後者のパフォーマンスは演算結果を展開する場としてのメモリ帯域で決まる。

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従来のApple Siliconは、メモリ帯域の広さが生きる生成は高速だったのだが、プロンプト処理が遅いという問題を抱えていた。端的にいうと「後処理は速いけど、前処理が遅くてポテンシャルを発揮できない」という状況だった。大量の文書を渡してから、最初の一文字が出るまで何分も待つのであれば、いくら生成が速くても仕事にならない。

この弱点を克服すべく、AppleはM5チップファミリーからGPUコアに「Neural Accelerator(ニューラルアクセラレーター)」という行列演算に特化した回路を追加した。前処理も高速にこなせるようになったため、処理速度の全体的な向上につながっている。

llama.cppの開発元が公開している性能表では、M5 MaxチップのLLaMA 7Bのプロンプト処理が毎秒3220トークンで、M4 Maxチップの886、M3 Ultraチップ(80コアGPU)の1471を大きく上回る。

M5 Ultraチップがうたう「M3 Ultraチップ比でAI性能4.5倍」は、プロンプト処理の高速化のことを指している。Appleがニュースリリースで言及した「AI利用でのピーク時のGPU演算性能」の向上は、Neural Acceleratorの搭載によってメモリ帯域分の広さを生かしやすくなった結果ともいえる。

理由その3:小型AIモデルの改善

理由の3つ目として、小さなAIモデルが良くなったこともある。

昨今のAIでは、「MoE(Mixture of Experts)」という仕組みを取り入れていることがある。これは大きなAIモデルの中に特定の専門領域に特化した小規模モデルを複数入れるというもので、メモリ上に全てのモデルをロードしておかなければならない点に変わりはないが、処理時にアクセスする領域(容量)を小さくできるので応答速度を改善できるというメリットがある。2026年に入って、「1000億〜3000億パラメーターの規模の大規模モデルながらも、実際に動くのは100億パラメーター前後」という中型MoEが一気に増えた。

AIの生成速度は「メモリ帯域(動作時に読み込むデータ量)」でほぼ決まるため、MoEという仕組みは帯域の限られたローカルLLMとの相性がいい。今回レビューしたMac miniでも、270億パラメーター級のMoEなら実用的なパフォーマンスを発揮する。

理由その4:ソフトウェアがそろった

そして4つ目の理由として、ソフトウェアがそろった点も忘れてはならない。

Apple SiliconでAIを動かす基盤は、Apple自身が開発する「MLX」がけん引してきたが、オープンソースのllama.cppも「Metal 4」のテンソルAPIを通じてNeural Acceleratorを使うようになった。

また、モデルを容易にダウンロードして動かせる「LM Studio」から、6月には別マシンのモデルを利用するための仕組み「LM Link」、7月にはエージェントアプリ「Bionic」が登場した。さらに、「Perplexity」が9月1日、エージェント自体はクラウド経由で利用しつつ、機密情報だけローカルのMacで処理できる「Hybrid Compute on Mac」が登場した。

このように、MacにおけるAI環境は急速に整ってきているのだ。エージェントAIを動かしやすい環境で、開発コミュニティーが活性化するのは自然な流れもある。「OpenClaw」「Claude Code」「Codex」「Hermes」あたりであれば、Mac miniとの相性も極めていい。

メモリアーキテクチャ、Apple製プロセッサのAI処理強化、小さくて良いモデルの趣向、そしてソフトウェア環境——この4つがそろったこのタイミングで、新しいMac miniとMac Studioは従来のデスクトップ機とは異なる評価がされるべきものになった。