7月28日に起きた熊本地震では断水が長期化するなどして、多くの被災者が避難生活を余儀なくされた。改めて注目されるのが、日常と非日常を区別せずに災害に備える「フェーズフリー」の考え方だ。飲料大手サントリービバレッジ&フード(東京)が提唱する「ちょ備蓄」プロジェクトは、いつもより少し買い置きしておくだけで備蓄になるというフェーズフリーの実践の一つだ。
備蓄十分はわずか2.9%
昨年7月にサントリーが実施した備蓄に関するインターネット調査では、「日用品などを多く買い置きする習慣がある」と答えた人が73.1%に達した一方、「自宅の備蓄が十分にある」と答えた人はわずか2.9%だった。
この差は消費者が「備蓄」を「普段の生活と違う特別なこと」と捉えていることの表れではないか-。そこで同社は昨年8月、日常生活で買い置きを少し多めにすることから備蓄を始めるよう呼びかけ始めた。ホームページの「ちょ備蓄メモ」では、「これって備蓄用?それとも日常用?分けなくてOK」「お出かけのお供にペットボトル1本を」などと発信し、発想の転換を促している。
購買を促すための経営戦略もあるが、それだけではない。各家庭に一定のストックが普及すれば、災害時の急激な需要増や、それに伴う物流の混乱を防ぐ大きなメリットも生まれる。
水不足で受注量3倍に
昨年夏に新潟県上越市などで水不足が起きた際、「天然水」2リットルの受注量が1週間で3倍に上昇し、この地域への供給が逼迫した。「水と生きる」をコーポレートメッセージに掲げるサントリーは、飲料水供給を社会インフラとして位置付けており、安定供給は社会的責任でもある。
プロジェクトでは他業種にも呼びかけ、菓子やゼリー飲料の「森永製菓」、衛生用品の「花王」などと連携する。「期待以上の反響」(サントリー関係者)といい、さらに連携企業を広げていくという。
政府は家庭用備蓄として最低3日分を備えるよう国民に求めているが、にわかに完全な形を目指すのではなく、無理なく「ちょっとずつ」備えられるようサントリーはプロジェクトを推進していく。
「小さなもしもに備える」
サントリーの溝本将洋・ブランドマーケティング本部長は、プロジェクトの肝について「災害備蓄は1週間分そろえるものと考える方が多いが日常で使うものを何かあったときにも使えるよう置いておくのが本来の姿。備蓄は普段と違う特別なことという意識を変えるのが着眼点だ」と語る。
自身の家庭でも実践しているといい、「自宅での備蓄に対する考えが変わった。以前は期限が近くなったものを慌てて食べていた。今はちょっと気になる新商品のレトルトカレーやカップ麺をワクワクしながら多めに買い、日常的に食べている。多めに買ったお菓子を子供が勝手に食べても、また買えばいいやと気楽に楽しめるようになった」と話す。
目指すところについては「1人暮らしの人が飲み会の翌朝、二日酔いになった時に水のストックがあると助かったり、天気が悪い時に食べ物があれば買い物へ行かなくても済んだり、こうした『小さなもしも』に備えることが結果として災害対策になる。一時的なキャンペーンではなく、息の長い活動にしたい。何げない買い物が未来の安心につながる生活を定着させたい」としている。



