川口ケアマネ殺害事件受け、介護現場の安全確保の難しさ浮き彫り
川口ケアマネ殺害事件受け安全確保の難しさ浮き彫り

埼玉県川口市で6月、介護支援専門員(ケアマネジャー)が訪問先の住宅で殺害された事件を受け、介護職員の安全確保のあり方が問われている。利用者や家族からのカスタマーハラスメント(カスハラ)が相次いでおり、10月からは全ての介護事業者にカスハラ対策が義務化される。複数人での訪問といった対策が推奨され、関連経費が補助されるものの、深刻な人手不足に直面する現場からは「実態に即していない」との声が上がる。専門家は積極的な行政の介入を求めている。

事件の概要と背景

6月1日午後、川口市飯原町の住宅で無職の男=当時(60)=から「ケアマネジャーを刃物で刺した。これから自分も刺す」と110番があった。埼玉県警によると、血を流して倒れていた鈴木希代子さん=同(63)=を署員が見つけ、男は自ら首を切った。いずれも搬送先の病院で死亡した。

鈴木さんは、男と同居する90代の母親のケアマネとして複数回訪れていた。この日は医師の訪問診療に付き添う予定だったが、医師の到着前に襲われたとみられる。男は110番の際「お金をだまし取られる」と話したが、トラブルは確認されておらず、何らかの思い込みが事件の背景にあった可能性がある。

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相次ぐカスハラの実態

和歌山市のケアマネの女性(58)は「事件はひとごとじゃないと感じた。怖い」と話す。ケアマネは、利用者側の意向を考慮して介護サービスの利用計画「ケアプラン」を作成。対価として介護報酬が事業者に支給される。ただ、居宅を訪問し、生活の補助をする業務性から「物を盗まれた」「お金を取られた」と言われるトラブルは珍しくなく、介護ヘルパーなども同様の状況にあるという。

「日本介護支援専門員協会」が令和6年11~12月に実施した調査によると、介護支援専門員らの33.7%が過去1年間に言葉の暴力や精神的な攻撃などを受けたと回答。身体的な暴力を受けたと答えた人もいた。これらの行為をした人物を複数回答で尋ねたところ、利用者の介護を担う家族や身元保証人らが71.8%と最も多く、次に利用者本人の44.3%だった。

行政の対策と現場の課題

安全確保の観点から複数での訪問が有効とされるが、別の職員が同行すると追加の経費が生じるため、多くの介護職員が1人で利用者宅を訪れているのが現状だ。埼玉の事件を受け、厚生労働省は、ケアマネらが介護サービス利用者の自宅を複数人で訪問する際の経費の補助事業などについて自治体に通知。事業者の負担を軽減する狙いがあり、具体的な金額は自治体が判断する。10月からは全ての介護事業者に、対応マニュアル作成などのカスハラ対策が義務付けられる。

介護問題に詳しい大阪経済大の森詩恵教授(社会政策)は介護現場での対策が難しいことから、地方自治体による積極的な介入を求める。ハラスメントはどの対人サービスにおいても起こりえるとした上で「介護業界では、どれだけ対応が困難な利用者であってもサービス自体の停止は難しい」と説明。認知症や精神疾患の利用者も一定数おり、どこまでをカスハラと認定するのか判断がつきかねる場合もあるという。

複数人での対応が推奨されることについては「深刻な人材不足で、人手を割けないことは多い」と指摘。「対応を事業所に任せきりにするのではなく、自治体が積極的に支援する姿勢が重要だ」と訴え、国に対しても「従業員の身の安全を確保し、安心して働ける環境整備を進めてほしい」と求めた。

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